研究課題/領域番号 |
20K15674
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 酪農学園大学 (2022) 北海道大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
尾針 由真 酪農学園大学, 獣医学群, 助教 (00847056)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | フタトゲチマダニ / オオトゲチマダニ / ミトゲノム / 一塩基多型 / 集団遺伝学 / 集団遺伝 / MIG-seq / SNP / 分子系統学的解析 / 集団遺伝学的解析 / 集団構造 / ヤマトチマダニ / マイクロサテライト |
研究開始時の研究の概要 |
マダニ類の分布拡大プロセスを推定することは疫学上重要である。分布拡大プロセスの推定には、遺伝的に近縁な個体の集まり(集団)や、集団間の分断や連結性などの集団構造を解析する必要があるため、本研究では、生息環境や繁殖形態がフタトゲチマダニの集団構造に与える影響を解析し、分布拡大プロセス推定における集団構造のスタンダードモデルを提唱することを目的とする。本研究の結果から、本種の分布拡大プロセスの推定が可能となり、TBDの効率的な防除対策に貢献することが可能となる。さらに本研究で提唱されるモデルは、他のマダニ類の分布拡大の解析や予想にも応用できる。
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研究実績の概要 |
本研究では、生息環境や繁殖形態がフタトゲチマダニHaemaphysalis longicornis(フタトゲ)の集団構造に与える影響を明らかにし、分布拡大プロセス推定における集団構造のスタンダードモデルを提唱することを目的としている。本年度は、フタトゲについて小さな集団構造および生息環境が集団構造に与える影響を明らかにするために、地理的に近接した地点および自然環境と牧場環境におけるマダニ類の採集を試みた。採集は北海道内の自然環境と牧場環境において行われ、新たに数カ所の地点からフタトゲが採集された。大きな集団および小さな集団の構造解析に有用な個体数が得られたため、今後ミトゲノムの解析およびSNPを用いた集団遺伝学的な解析を実施し、環境間における集団構造から分布拡大プロセスの推定を行なう予定である。さらにフタトゲの対照群としてオオトゲチマダニH. megaspinosa(オオトゲ)の採集およびミトコンドリアDNAの部分配列(mtDNA)を用いた大きな集団構造の解析を試みた。採集されたオオトゲについてmtDNAを用いた分子系統解析および集団遺伝学的な解析を行なった結果、地点間では遺伝的な分化や集団構造が見られないことが明らかになった。これは、オオトゲが宿主動物の移動などによって地点間を行き来している可能性を示しており、地点間のオオトゲは大きな集団としては識別できないと考えられる。今後は、オオトゲについてもSNPを用いた集団遺伝学的な解析の有効性を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の流行下であったが、規制緩和などを受け中小規模な野外サンプリングと採材されたサンプルを用いた解析を行なった。 前年度までの解析の結果、フタトゲでは大きな集団に対してもゲノムワイド1塩基多型(SNP)を用いた集団遺伝学的解析が必要であることが明らかになった。そこで本年度は、フタトゲの小さい集団構造を解析するために北海道内の各地においてフタトゲのサンプリングを行なった。その結果、地理的に近接した新たなフタトゲの生息地を発見することができ、さらに前年度から引き続きサンプリングを行なった地点においても新たにフタトゲが採集された。これにより小さな集団の構造解析に必要な地点数が集まったと考えている。また、前年度までは自然環境中における採材が多かったが、本年度は新たに北海道の牧場環境においてもフタトゲを採集することができた。今後、さらに牧場環境における採集地点数および採集個体数を増やし、環境間における分布拡大プロセスの違いについて検証していく予定である。 またフタトゲの集団構造を理解する上で、対照群としたオオトゲの集団構造解析についても開始した。北海道内の地理的に近接した生息地においてオオトゲを採集し、mtDNAを用いた分子系統学的および集団遺伝学的解析を行なった。その結果、系統樹上では採集地点で独立したクラスターは形成されず、採集地点内における遺伝的分散が最も高い値を示したことから、地点間における集団分化は見られなかった。この事は、オオトゲが宿主動物の移動などによって地点間を行き来している可能性を示している。今後は、地理的に離れた地点において採集されたオオトゲを用いて大きな集団構造を、またSNPを用いた集団遺伝学的解析により小さな集団構造を解析していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、フタトゲの新規採集地点の開拓および対照群となるオオトゲについて採材および分子系統学的ならびに集団遺伝学的解析を実施した。フタトゲについては新たな採集地点を発見できたため、今後は前年度までに開発したロングレンジPCR法およびMIG-seqによるSNP検出を用いて小さな集団構造の解析を実施し、分布拡大プロセスの推定を行なっていく予定である。また生息環境が集団構造に与える影響を明らかにするために、本年度に発見された牧場環境に生息するフタトゲについても、同様の解析を行なっていく予定である。 さらに本年度は地理的に近接した地点においてオオトゲが採集されたたものの、mtDNAによる集団構造は見られなかった。そこで今後は、MIG-seqによるSNP検出を用いて小さな集団構造の解析を実施するとともに、大きな集団構造を解析するために北海道内だけでなく本州以南においても採材を実施し地理的に離れた地点における集団遺伝学的解析を試みる。 これらのデータをまとめて、これまでフタトゲの生息が確認されていなかった地点に新規フタトゲが侵入した場合、どのような分布拡大プロセスを辿るのかを推定し、それが生息環境や繁殖形態によってどのように変化するのか、あるいはフタトゲに特異的なパターンなのかを検証してく予定である。
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