研究課題/領域番号 |
20K15854
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
八木 創太 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (10779820)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | タンパク質進化 / RNAポリメラーゼ / 生命の起源 / フォールディング / タンパク質のフォールディング |
研究開始時の研究の概要 |
セントラルドグマにおける「転写」反応を司るRNAポリメラーゼの活性ドメインを含め、多くのタンパク質で保存されるβバレフォールドであるDPBBの起源を探る。そのため、本研究では、理論的設計法及びコンピュータデザイン手法により祖先DPBBを実験的に復元し、その機能解析を進める。これにより、汎用的な祖先DPBBフォールドが如何にして誕生し、原始的な生物システムにどのような機能を与えうるかを解明する。
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研究実績の概要 |
本研究ではRNAポリメラーゼの活性コアを形成する小型βバレル構造DPBBがどのように誕生・進化してきたかを探る。DPBBは約80残基からなるタンパク質構造であるが、その配列中には約40残基の疑似的な2回繰り返し構造が認められる。そのため、古代のDPBBは40残基の短いペプチドから誕生し、遺伝子重複と融合を経ることで現代のDPBB構造へと進化したと推定されてきた。本研究では、実際に約40残基のペプチドから構成されるホモダイマー型DPBBを実験的に構築することに成功した。この結果は、従来のDPBBの進化仮説を強く支持する。 また、古代生命はタンパク質合成において現存生命が利用する20種類のアミノ酸よりも少ないアミノ酸種しか用いていなかったと考えられている。そこで、アミノ酸種を制限したホモダイマー型DPBBの設計を行ったところ、7種類のアミノ酸だけでDPBBを構築できることを見出した。つまり、古代DPBBはたった7種類のアミノ酸から構成される約40残基の短いペプチドでも構成可能だということがわかった。 さらに興味深いことに上記の7種のアミノ酸で構成される配列はDPBB構造だけでなく、溶媒条件を変化させることで異なるホモダイマー型βバレル構造(DZBB)を形成することも見出した。このDZBBは天然のタンパク質には見られない構造である一方、リボソームタンパク質や翻訳因子などに含まれる他のβバレル構造と高い類似性が認められた。そこで、各βバレル間の進化的関係性を検証したところ、少ないアミノ酸置換また配列欠失・挿入のみでDZBBから3種の異なるβバレル構造へと構造変換できることを見出した。この結果は、DZBBがβバレル間の進化においてミッシングリンクのような存在であり、RNAポリメラーゼやリボソームタンパク質を構成する小型のβバレルは同一の祖先タンパク質から誕生したことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では、RNAポリメラーゼのコアを形成するDPBB構造が単純なペプチドからどのように誕生してきたかを明らかにすることを目的としてきた。そして非常に単純で短いペプチド(7アミノ酸種、約40残基)からDPBBは誕生可能であるということを2022年度までに明らかにし、この結果を学会発表および学術誌への論文発表を行ってきた。そのため、概ね当初の目標は達成できたといえる。 また、2022年度には上記の単純なペプチドが溶媒条件に依存して、全く新しいβバレル構造DZBBを形成することも発見した。さらに、このDZBBを通してリボソームタンパク質や翻訳因子などに保存される多様なβバレル構造にも進化可能であることを実験的に見出すことができた。この結果は「転写」と「翻訳」の中枢を担うRNAポリメラーゼとリボソームタンパク質が同一の祖先タンパク質から誕生したことを示唆し、セントラルドグマの起源にも迫る発見だといえる。そのため、当初の計画以上に研究が進呈していると判断した。 また、ここまで7種類のアミノ酸でDPBB構造を作ることに成功したが、異なる組み合わせの7アミノ酸種であってもDPBB構造は作れることが分かった。さらに、上記で発見したDZBBも異なる配列でも構築可能であること、同一のアミノ酸配列であるにもかかわらず環境条件に依存してDPBBとDZBBに構造変化しうるmetamorphosisの発見など興味深い研究データが得られている。これらは新たな研究発展性を秘めており、タンパク質の初期進化研究をより強く推進する基盤を提供する。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでにβバレルタンパク質間のフォールド進化においてミッシングリンクとなりうるDZBB構造の発見、およびDZBBを介したβバレル間の進化の再現に成功してきた。今後、本研究結果を学術論文として投稿する予定である。また、これまでフォールド進化の対象としてきたβバレルタンパク質群以外にも類似したβバレル構造を複数見出している。そのため、これら多様なβバレル間を含むより広範囲なフォールド進化を再現することで、単純なペプチドによる多様なタンパク質フォールドへの進化の可能性を探る予定である。
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