研究課題/領域番号 |
20K16504
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
池田 彩 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (70867796)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | CHCHD2 / ミトコンドリア / CHCHD10 / 筋萎縮性側索硬化症 / ALS / Mitochondria / 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) |
研究開始時の研究の概要 |
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)は、有効な治療法のない神経難病疾患の一つである。CHCHD10は、ALSや前側頭葉型認知症の原因遺伝子として知られている。今回我々は、CHCHD10の相同遺伝子であるCHCHD2もまたALSの原因遺伝子になりうるという仮説を立て、ALS患者に対しCHCHD2のスクリーニング解析を施行した。結果、新規のバリアントを同定し、患者の脳病理を取得した。本研究では新規のバリアントをもつALS患者の剖検脳や疾患モデルを用いて、CHCHD protein familyがALS発症にどのように関係しているのかを明らかにし、新規の分子標的療法の開発へと展開することを目指す。
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研究実績の概要 |
CHCHD2とCHCHD10は、それぞれ筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)とParkinson's disease (PD)という2つの異なる神経難病の原因遺伝 子として同定されている。我々は「CHCHD2もまたALSの原因遺伝子になりうる」という仮説をたて、ALS患者945名の変異解析を行い、2つの新規レアバリアント (c.-8T>G、およびc.41C>T: p.P14L)を同定した。新規レアバリアントをもつALS患者2名では、核タンパク質TDP-43の蓄積が脊髄運動神経と大脳皮質一次運動野で 認められた。これは典型的なALS病理である。さらに、これらバリアントを有するALS患者脊髄運動神経で、CHCHD2がミトコンドリアから細胞質へ局在変化する病 理像を認めた。cDNAとして解析可能なCHCHD2 P14Lバリアントについては、ショウジョウバエでの発現により、ミトコンドリア変性・神経変性を示し、ALS病因性 変異である可能性が強く示唆された。 本研究では、ミトコンドリアタンパク質の異なる変異が、ALSおよびPDの発症に繋がる分子病態機序を解明することを目的とする。具体的には、ALSにリンクする と考えられるCHCHD2 P14LとPDにリンクするCHCHD2 T61I変異体とを用いて、ヒト神経系細胞とゲノム編集で変異を導入したノックインマウスを用いて、タンパク 質機能、ミトコンドリア・神経機能におよぼす影響を比較する。これまで、ALSとPDで原因遺伝子の重複は見つかっておらず、CHCHD2が初めての例となる可能性 がある。本研究で目指す、それぞれの変異がALS、PDを発症するメカニズムの解明は、ミトコンドリアを標的としたALS、PD共通の新規分子標的療法の開発へと繋 がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①CHCHD2 P14Lのミトコンドリアから細胞質への局在変化:CHCHD2 P14LをもつALS患者脊髄運動神経で、CHCHD2がミトコンドリアから細胞質へ局在変化する病理像を認めた。またCHCHD2 P14Lをもつヒト神経系SH-SY5Y細胞、CHCHD2 P14Lを導入したショウジョウバエにおいても、同様の結果を得ており、これらは野生型、CHCHD2 knock out、CHCHD2 T61Iをもつモデルと比較して有意な結果であった。 ②CHCHD2 P14Lをもつ疾患モデルにおける、細胞質内Ca2+濃度の異常な上昇:CHCHD2 P14Lをもつヒト神経系SH-SY5Y細胞でCa2+イメージングを行った。その結果、電気刺激後の細胞質内Ca2+濃度の有意な上昇を認めた。導入したショウジョウバエ中枢脳の神経細胞でCa2+イメージングを実施したところ、電気刺激後のミトコンドリア内Ca2+流入の減少と細胞質内Ca2+濃度の異常な上昇を認め、細胞死の原因である可能性が考えられた。これらは野生型、CHCHD2 knock out、CHCHD2 T61Iをもつモデルと比較して有意な結果であった。これらの結果から、CHCHD2 P14LはALS病因性変異である可能性が強く示唆される。 ③CHCHD2 P14LとT61IにおけるCHCHD10との結合性の変化:CHCHD2とCHCHD10はヘテロダイマー・ホモダイマーを形成する。CHCHD2変異体とCHCHD10の結合性を、変異をもつヒト神経系SH-SY5Y細胞を用いて免疫沈降にて解析したところ、CHCHD2 P14LとCHCHD10は結合性の低下、CHCHD2 T61IとCHCHD10の結合性の上昇を認めた。 上記の状況から、概ね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
①マウスモデルの行動解析、病理学的評価、遺伝子発現解析 CHCHD2のALS変異体、PD変異体のノックインマウス (ゲノム編集で作出済)を用いて、行動解析 (握力測定、Rotarod、ポールテスト)や病理解析 (脊髄や中脳におけるTDP-43、α-Synucleinの蓄積の有無の観察など)を実施する。表現型解析後、神経細胞の遺伝子発現の変化から、2変異体が神経におよぼす病態を分子レベルで探索する。具体的には、神経変性発症前の脊髄や中脳を用いて、神経変性が起こる過程でみられる遺伝子変化をRNAシークエンスにて探索する。検出された遺伝子変化のうちTDP-43やα-Synucleinの凝集化に関与すると考えられる候補分子をモデル細胞、マウス組織で検証し、病態に関与する鍵となる遺伝子群を同定する。 ②iPS 申請者らは、すでにCHCHD2 P14L変異を有するPARK22患者からのiPS細胞化を進めており、現在品質評価を行っている。本研究ではCHCHD2 P14L患者iPS細胞から分化誘導したドパミン神経細胞を用いて、CHCHD2の局在異常・細胞内Ca2+動態の変調、ミトコンドリアストレスに係るRNA発現プロファイルを、T61I変異患者由来iPS細胞と比較しつつ解析する。一方で、これまで樹立した家族性PDに共通して検出された病態表現型(凝集化αシヌクレインの蓄積、神経細胞死、マイトファジー異常など)およびミトコンドリア機能異常に関しても、T61I変異iPS細胞と比較しながら評価を行う。CHCHD2 14LおよびT61Iノックインマウスの中脳ドパミン神経の表現型を解析し、両マウスモデルから検出された神経変性にかかる表現型も考慮しつつ、T61I iPS細胞の解析と併せて、薬剤スクリーニングに適した病態表現型の検出方法を決定する。
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