研究開始時の研究の概要 |
私たちは朝自然に目がさめ, 夜自然に眠くなるように, いわゆる体内時計を持っています. 私たちの身体では, 脳の視床下部の視交叉上核 (SCN) という場所が時計中枢として機能しています. 私たちの体内時計は現代の眠らない社会に適応できなくなってきています. 私は最近, マウスES細胞から機能的な成熟三次元SCNを試験管内で誘導することに成功しました. この研究ではこの実験系をヒトiPS細胞に応用することで, ヒトSCNを試験管内で作製し, 薬を探索することで, 時差ぼけ治療薬の発見を目指します. この治療薬は交替勤務の方の睡眠障害や, 高齢者の昼夜逆転などにも応用可能と考えられます.
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研究実績の概要 |
本年度は, ヒトESでのSCN誘導系作製の予備実験として, マウスESを用い時計遺伝子レポーターES細胞を用いたSCN分化誘導系の改良と,移植実験・発光計測に取り組んだ. 発光測定では, 視交叉上核でしかみられない時計遺伝子の同期振動は3週間以上の観察がなされ, 神経活動依存性も証明することができた. シングルセルRNA Seqの結果では, SCN近傍の視床下部がピンポイントで誘導されており, SCNの誘導効率は2割を超えていた. 間脳のわずか1/1000程度にすぎないSCNの誘導効率としては非常に高い効率が得られている. 非常に限られた領域がピンポイントで誘導されているため, 系譜解析に適した系であると考えられるため, 現在はシングルセルRNA Seqの時系列サンプリングによる偽時系列解析を施行中である. また, 移植実験では, 試験管内脳回路に行動が支配されたマウスの作製が少しずつ見えてきており, インパクトの大きい仕事になる可能性が見込まれる. コロナ禍の影響で施行できない時期も多いものの, 年度明け早々に再開予定である. この試みが達成されれば, 真に機能的な脳組織の作製系の構築となり, 発生学的な研究・時間生物学的な研究・医学的な研究への発展性が期待される.
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