研究課題
若手研究
双極性障害やうつ病の生物学的基盤は、様々な生理機能の概日振動変化と関連づけられる。我々は、概日時計機能を反映する時間知覚の概日変動パターンがうつ病治療効果を予測することを見出した。近年、脳構造が時刻により変化し、睡眠と覚醒により異なる影響を受けることが確認され、その生理学的意義が問われている。本研究は脳の構造的可塑性ダイナミクスが気分障害病態や治療反応に果たす役割の解明を目指す。
気分障害と概日機構(体内時計機構)の関連を示唆する知見が増加しつつあるが、臨床で簡便に利用可能な概日指標の確立には至っておらず、これらの臨床への還元が進んでいない。本研究は、概日機構が時間~日単位の短期間で示すダイナミクスが気分障害の病態・治療において担う役割の解明を目的に行われた。概日機構のダイナミクスを反映しうる指標としてMRI指標を検討したが、コロナ禍で研究・診療活動の制限が長期化したため、代替指標として、時間認知、脳波を用い病態・治療反応性との関連を検討した。さらに、抑うつエピソードへの治療介入として、薬物療法、反復性経頭蓋磁気刺激法に加え、概日機構の調整を介した気分障害の治療法として知られる覚醒療法(断眠療法)を用いた。覚醒療法の実施体制を整備し、本療法を適用した気分障害患者2名において、1週間後にうつ症状の有意な改善を確認した。反復性経頭蓋磁気刺激法を受けた14名の単極性うつ病患者において、短時間の時間認知(例:10秒)の日内変動が4週間後の治療転帰と関連する傾向を示した。双極性障害患者16名において、短時間の時間認知特性が罪責感や絶望感といった抑うつの中心的認知構造と関連することを見出した。双極性障害患者31名において、簡易脳波計で定量化した睡眠指標と覚醒療法の治療効果が関連し、治療前にレム睡眠出現率が高いほど1週間後の治療反応性が不良であった。健常成人40名において、気分調節に重要な役割を担うことが知られる前部帯状回と上側頭回の subdivision である左側頭桓平面の機能結合性が夜よりも朝に増強した。以上から、概日機構に関連した生理・行動のダイナミクスが気分障害の病態や治療反応性にかかわることが示唆され、睡眠・概日リズム指標に基づく気分障害の層別化、およびこれらを標的とする治療介入の有用性が示唆された。
4: 遅れている
コロナ禍に伴う研究・診療活動の制限のため、参加者確保、実験遂行における困難が持続した。研究のデザイン、対象者、実施体制の見直しを行う必要性が生じ、時間を要した。
研究目的を保持しながら修正した研究計画に基づきデータ収集を図る。既存データを活用し知見の創出に努める。
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