研究課題/領域番号 |
20K16897
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
加藤 耕治 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (40844056)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | レトリーバー複合体 / 3C症候群 / Ritcher-Schinzel症候群 / 脂質異常症 / 骨形成異常症 / エンドソーム / VPS35L / 骨形成異常 / 3C症候群 / エンドソームリサイクル / Prx1-Cre / Nestin-Cre |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、我々が新規の疾患原因遺伝子として同定したVPS35Lの機能不全が引き起こす疾患全体像を明らかにし、その発症メカニズムを解明する。VPS35Lはレトリーバー複合体と呼ばれる三量体を形成し、エンドソームにおいて膜蛋白の選択的リサイクルに関与する。細胞レベルではその機能不全は様々な膜蛋白の発現量を低下させることが確認されているが、個体発生においては、レトリーバー複合体がどの様な役割を果たしているのかは全く明らかになっていない。そこで我々は、マウスモデルや細胞での実験を用いてレトリーバー複合体の機能不全による疾患の分子病態を明らかにする。
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研究実績の概要 |
我々はVPS35LをRitcher-Schinzel(3C)症候群の新規原因遺伝子として報告した(J Med Genet. 2020)。この3C症候群は古典的にはCranio-Cerebello-Cardiac dysplasiaとして頭蓋顔面、小脳、心臓の形成異常を3主徴としていたが、我々の患者報告を含め、現在では低身長・末節骨低形成などの骨形成異常、蛋白尿、眼科的合併症など多彩な表現型がみられることが明らかになっている。ただし、VPS35Lの機能異常を原因とする3C症候群の報告例は本研究研究開始時点では自験の1家系2症例のみであり、疾患の全体像が明らかでなかった。 そこで国際共同研究(主としてGenematcher)を用いて患者集積を行い、3C症候群に類似の表現型を呈する3症例においてVPS35Lに変異を同定した。VPS35Lはレトリーバー複合体のコア蛋白であり、レトリーバー複合体はCCC複合体と蛋白複合体を形成するが、患者から同定された変異体は蛋白複合体を形成できないことをインターアクトーム解析により明らかにした。また臨床的側面では、現時点までに集積した4家系5症例の臨床情報を整理し、脂質異常症、免疫系異常、消化管機能不全などの新規表現型を3C症候群は呈し得ることを明らかにした。また、特に脂質異常症に関しては、VPS35Lの機能異常により脂質の取込みに重要なLRP1、LDLRの細胞膜における発現を生じ、結果として脂質の取込み機能が低下することによって生じていることを示した。これらの成果はJ Med GentよりPublishされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究助成の開始前にはVPS35L遺伝子の機能異常を原因とする先天異常症候群症例は我々が報告した1家系2症例のみであったが、国際共同研究(主としてGenematcher)により3家系3症例の追加をすることができており、当初の目的通り臨床的な全体像を明らかにすることが出来ていると考えている。論文報告後にもVPS35Lに変異を有する症例の変異体機能解析を行い、更に1症例を確定し、他にも現在解析中の症例が1例あり、徐々に患者数を増やし、疾患に関する理解を深めることが出来ている。 加えて、エンドソームのリサイクル機能においてVPS35Lと相互作用を果たす複数の遺伝子に新規変異を同定し、現在機能解析を進めている。それらの遺伝子変異が機能喪失型変異であれば、患者・細胞機能両面からVPS35L機能異常と比較することで、エンドソームのリサイクル機能全体において、各遺伝子・蛋白が果たす役割の相違・共通点を明確にすることが出来、疾患分類や今後の管理指針を示すことが出来ると考えている。 臨床情報を集積しているものの、患者さんの多様な表現型を引き起こす分子病態が明らかになっていないため、細胞機能解析・マウスモデルの解析も進めている。ノックアウトマウスが胎生致死であることから、患者さんで同定された変異体を導入したノックインマウスや組織特異的ノックアウトマウスを用いて解析を行っている。細胞機能解析に関しては順調に進んでおり、プロテオーム解析などを用いて病態に関与する蛋白の候補を抽出している。 一方で、コロナウイルス感染症やロシアのウクライナ侵攻などによる国際情勢の不安定さにより、マウスや細胞実験に必要な物品の輸送やサンプルの国際共同研究に伴う輸送が出来ず、一部遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
1.現時点でVPS35Lの変異例は5家系6症例を集積しており、VPS35Lに相互作用を持つ蛋白をコードする複数の遺伝子に変異を有する症例も同定している。これら新規の遺伝子変異の病原性を機能解析により確定し、各遺伝子間における表現型の相違・共通点に関して検討を行う。これにより、VPS35Lのみでなく、エンドソームのリサイクル機能に着目して一つのpathwayの異常としての症候群の理解を目指していきたいと考えている。 2.脂質異常症に着目した機能解析を行い、脂質の取込みに重要な役割を果たすLRP1やLDLRの発現量低下がVPS35Lの欠損により生じることを明らかにした。従って、この様にリサイクル機能異常により膜蛋白の発現変化を生じ、結果として患者表現型に繋がると考えている。今後はどの様な膜蛋白の変化が生じるのかを詳細に検討し、またそれらが各遺伝子間でどの程度共通であるのかを明らかにすることで、病態理解に繋げる。 3.ノックインマウスを樹立し、患者さんの表現型を模倣していることを確認できたが、B6の純系に戻し交配を行ったところ個体が得られなくなった。恐らく脆弱性によるものと考えている。F1交雑系を用いて、再度系統を立て直し、個体を用いた病態解析を行う。
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