研究実績の概要 |
東京女子医科大学病院血液浄化療法科で血液透析を施行されている患者の, 定期採血の残余血液を用いた(倫理委員会承認番号4822-R2). また健常人のボランティアから採血した検体を用いた(倫理委員会承認番号2023-0174). 赤血球を比重により分離し, 赤血球をLight fraction(LF)とHeavy fraction(HF)へ分離した. Annexin V-FITCを添加しPS表在化率を測定した. NBD-PS, NBD-PCを用いてスクランブラーゼ活性, フリッパーゼ活性を測定した. フリッパーゼ活性に影響する因子として, 赤血球内のカリウム濃度をカリウムイオノメーターで, ATP濃度はルミノメーターを使用して測定した. 赤血球年齢の指標としてHbA1cを測定し, またLF及びHFの3検体ずつそれぞれを低張液を用いて溶血させ, 沈殿物から赤血球膜を得たこれらにおいてiTRAQ/TMT試薬を用いた相対定量プロテオーム解析を行った. 遠心分離により腎不全患者の赤血球を分離でき, 分布は健常者のものと類似していた. 比重の大きい老化した赤血球ではPSがより多く表在化し, フリッパーゼ活性のみが低下していた. またHFでは赤血球内のカリウム濃度が低下していたがATP濃度は変化なく, フリッパーゼ活性の低下の原因はカリウム濃度の低下と考えられた. 健常者の赤血球のHFより透析患者のHFの方がHbA1c値が低く, 赤血球年齢が若いうちに比重が増加していることがわかった. 検出されたタンパク質のうち赤血球内のカリウム濃度やカルシウム濃度変化に関与するタンパク質として, PIEZO1が老化赤血球においても保たれていることが見出された. また酸化修飾により活性化されるTRPM2が酸化されていた.
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今後の研究の推進方策 |
赤血球膜蛋白質で、カリウム濃度の低下に関与しうる2つのタンパク質について分析を行う。すなわち、PIEZO1は圧感受性のカルシウムチャネルであり、その活性化はカルシウム感受性カリウムチャネルを介し、カリウム濃度の低下を起こす。PIEZO1はYoda 1, Jedi 1, Jedi 2で活性化されることが知られており(Wang Y et al. Nat Commun, 2018)、また腎不全患者の血中で増加している3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロパノン酸(CMPF)はこれらに構造が類似している。これらを合わせると、腎性貧血患者の血中でCPFMが増加することにより若い赤血球でPIEZO1が活性化し、赤血球内のカリウム濃度が低下しやすくなる機序が想定された。またこれを支持する報告として、腎性貧血患者の血中においてCMPFの除去はヘモグロビン値を改善するという報告がある(N. Tanba et al, Jpn J Artif Organs, 1995)。 また、Transient receptor potential melastatin 2(TRPM2)は、温度感受性のカルシウムチャネルであり、TRPM2の酸化修飾により温度感受性が上昇することが示されている(M. Kashio, et al. PNAS)。この結果から腎性貧血患者の赤血球でTRPM2が酸化され活性化されることで、カルシウム感受性カリウムチャネルを介しカリウム濃度が低下しやすくなる機序が想定された。これらのタンパク質をin vitroで活性化または阻害した時の比重の大きい赤血球の量を測定し、これらが実際に赤血球内のカリウム濃度の低下に関与するか分析していく。
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