研究課題
若手研究
近年、悪性腫瘍に対し免疫チェックポイント阻害薬の有効性が注目されているがその奏効率は未だ限定的である。これらの治療成績に影響を与える因子として、腫瘍内浸潤CD8+T細胞が重要であることが分かっている。CD8+T細胞に影響を与える因子として、I型インターフェロン(IFN)誘導性遺伝子の存在が重要であることを申請者等は近年報告し、腫瘍由来の特定の代謝産物がI型IFN誘導性遺伝子に重大な影響を与えていることを見出した。本研究は、I型IFN誘導性遺伝子および腫瘍由来の代謝産物の役割に焦点を当て、そのメカニズムを解明することで治療応用についての可能性を検討することを目的とした。
悪性腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療成績に影響を与える重要な因子としてI型インターフェロン(IFN)が報告されている。本研究はI型IFN誘導性遺伝子に焦点を当て、これらの遺伝子に重要な影響を与える因子を探索し、その病態における機序を解明することで、診断・予後マーカーとしての可能性を探り、さらに治療応用についての可能性を検討することを目的とした。腫瘍由来の代謝産物である乳酸に注目し解析を行い、乳酸がI型IFN誘導性遺伝子の一部を抑制していることが分かった。さらにマウス腫瘍モデルにおいて乳酸の投与下ではICIの抗腫瘍効果が減弱した。そこで乳酸の腫瘍免疫における役割について、自然免疫を担う重要な細胞である樹状細胞を用いて解析を行ったところ、乳酸の濃度依存的に抗腫瘍効果を持つサイトカインIL-12bの産生が抑制された。次に遺伝子レベルで網羅的な解析を行い、乳酸が樹状細胞において転写因子EGR1を誘導していることが分かった。さらにEGR1はヒトの悪性黒色腫組織において非浸潤癌より浸潤癌で有意に発現が上昇していた。乳酸および乳酸により誘導されたEGR1はICIによる悪性腫瘍の治療において新しい標的となりうる可能性があることが考えられた (Kanemaru et al. iScience, 2021)。 また別途、I型IFN誘導性遺伝子の一つである転写因子BATF2も浸潤悪性黒色腫で発現率が有意に上昇しており重要な診断マーカーである可能性が分かった (J Dermatol, 2020)。また本研究に付随した悪性黒色腫のマーカーに関する研究から、悪性黒色腫患者の血中cell-free DNAにおけるBRAFおよびMET遺伝子変異がBRAF阻害薬の治療時における新しいマーカーになりうる可能性があることが分かった (J Dermatol Sci, 2021)。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (18件) (うち査読あり 18件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件)
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