研究課題/領域番号 |
20K17703
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
|
研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
富田 晃一 東京医科大学, 医学部, 助教 (10647267)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | 膵臓癌 / 膵癌 / 唾液 / メタボローム / 早期診断 / キット / ポリアミン |
研究開始時の研究の概要 |
近年代謝物質を網羅的に解析するメタボローム研究が注目されている。これは代謝物と呼ばれる低分子を網羅的に測定して、細胞の機能解析や各疾患の診断応用などを研究する手法である。メタボローム解析により、癌をはじめとした疾患の特徴を代謝レベルから解明することが可能になる。メタボローム解析の利点として、癌の組織ではなく血液・尿・唾液をサンプルにすることが出来るため簡便に何度でも採取することができる。また低価格化も可能である。これまでの研究から、唾液中にはポリアミン類をはじめとした代謝物質の変化が生じることが分かっている。この研究成果に基づき、唾液のメタボローム解析による膵癌のスクリーニング検査を開発する。
|
研究実績の概要 |
本研究は予後不良な膵臓癌の治療成績を向上すべく、特に膵臓癌の早期診断を目的とした新たなマススクリーニング方法の開発を目指している。我々は特に唾液に注目して、低侵襲・低コストで安全な唾液による膵臓癌の診断キットの作成・確立を試みている。 本研究では検査キットの作成にメタボローム解析を用いた。メタボローム解析は遺伝子ではなく代謝物質の研究で、担癌患者体液中の代謝径路を網羅的に解析し、癌の発生・増殖・転移等に関連する特徴的な代謝物質を同定する事ができる。これまでの研究により、膵臓癌の早期発見に繋がる可能性のある幾つかのポリアミン類が質量分析装置で同定され、これらを標的とした検査キットが作成された。 この作成された検査キットを用いて、実臨床の膵臓癌患者を対象に測定を開始した。所属機関の倫理委員会の承認を得た上で、個々の患者に同意を得て唾液の採取を行っている。採取した唾液検体を検査キットと反応させ、反応ラインの吸光度を測定する。その値を実際の臨床データと照合し、検査キットの信頼性や有用性について解析を進めている所である。 その結果、例えば採血による腫瘍マーカーの値と本検査キットの吸光度には相関が乏しく、本検査キットには従来の腫瘍マーカーとは異なる新たな測定意義があるのではないかと考えられた。また検査キットの吸光度に様々なカットオフ値を設定する事で、個別の臨床的意義に応じた診断性能が向上する事も分かった。その他、化学療法中の病勢評価にも適用できる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗状況について、当初の想定よりやや遅れているものの予定の研究が進められている。進捗が遅れている原因として、一つには倫理委員会の承認に時間がかかった事がある。倫理委員会の申請は以前から準備し、十分な研究期間を確保できるよう配慮していたが、倫理委員会の承認を得るまでに想定よりも日数を要した。また、二つめの原因として実際の測定環境の整備に時間がかかった。唾液の収集および保管・管理やそれに付随した施設内の準備が必要であった。また測定のためにイムノクロマトリーダーを新たに購入し、使用方法を学習し安定して測定できるようになるまで日数が必要であった。一方で検査キットや付随する薬品については、作成・供給して頂いている学外の会社から問題なく調達できた。 また進捗状況に影響を与えた他の要因として、COVID-19の蔓延があった。感染の極期には全国的に手術数や外来患者数が減り、実質的に唾液の採取対象となる膵臓癌の患者数が減少した。また感染防止の観点から唾液の採取にも注意が必要となり、通常よりも取り扱いが煩雑となって検体採取に支障を来した時期があった。このため研究期間を予定よりも1年間延長し、予定通り研究を遂行できるよう日程を変更するに至った。 現在、予定していた自施設内での唾液採取・測定は順調に施行できている。検体を外来および入院患者から採取した後施設内で保管し、検査キットや測定時間を十分に確保した上で測定しデータを収集している。また臨床データの内容も収集し、解析も並行して進めている。近日中に現状での小括を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、まずは現行の検体およびデータ収集を継続し、蓄積していきたいと考えている。研究の進捗がやや遅れているため目標症例数には未だ達しておらず、症例の集積が引き続き必要である。また自施設だけでは症例数の十分な集積が困難な可能性も考えており、その場合は他施設で更に膵臓癌の症例数が多い施設へ研究の協力を依頼し、多施設研究として研究を進める事も検討している。 また、対象となる膵臓癌の症例についてもより幅広く収集する事を考えている。具体的には術前症例のみならず、術前化学療法中の症例、術後無再発フォロー中の症例、術後再発が発見された症例、術後再発に対して化学療法中の症例、術後再発で化学療法後に臨床的寛解を得た症例、などについても本検査キットが適応できないか検討していきたい。近年の膵臓癌治療は手術前に化学療法を行う事が一般的であり、また術後の再発率が高い事から膵臓癌治療における化学療法の重要性は一層増している。もし化学療法の治療効果判定や病勢評価も本キットで行う事ができれば、臨床的意義は非常に高いと考えられる。 更に、本研究で一定の結果が得られた際には、研究を更に発展させて国外の膵臓癌症例についても本検査キットを使用する事を視野に入れている。本邦とは異なる地域の多人種や多国籍の膵臓癌患者を対象にする事で、検査キットの信頼性や有用性がより高まると考えている。その際には、研究に協力して頂ける海外の施設や医師を新たに探す必要があり、今後の研究の進捗状況次第であると思われる。
|