研究課題
若手研究
腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Stenosis:LSS)は日本整形外科学会の提唱するlocomotive syndromeの三大要因の一つであり、国内患者数は約365万人と報告されている。わが国の高齢化に伴い、患者数は今後更に増加することが予想されるが、現在のところLSSの病態は未だ完全には明らかではなく、LSSの病態を制御しうる新たな治療法を確立することが急務となっている。本研究では手術時に採取したLSSの肥厚変性した黄色靭帯と非変性黄色靭帯とを比較検討することでLSSにおける酸化ストレスの関与を明らかにし、抗酸化剤が新規治療標的になりうるか否かを解明したい。
変性したヒト黄色靭帯ではTNF-αの上昇とともに酸化ストレスマーカーである8-OHdGが黄色靭帯の肥厚の程度に比例して上昇し、8-OHdGとTNF-αの間にも中等度の正の相関が見られた。次いで単離培養したヒト変性黄色靭帯細胞にNF-αおよび過酸化水素およびブチオニンスルホキシミン (BSO)を添加し、細胞内の活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)をフローサイトメトリー法で測定したところ、コントロール群と比較し、両者とも有意に細胞内ROSが上昇していた。次いで黄色靭帯細胞にTNF-αおよび酸化ストレスとしてBSO、抗酸化剤としてNACを添加し、1型および3型コラーゲン、TNF-αの各遺伝子発現をRT-PCRを用いて評価した。BSOを添加し、上昇したコラーゲン1型および3型、TNF-αのmRNAは抗酸化剤であるNACを添加することで有意に低下した。また、TNF-αを添加して上昇した1型および3型コラーゲンのmRNAもNACを添加することで有意に低下し、TNF-αのmRNAは低下する傾向を認めたが、有意差はなかった。また、BSO投与後10分でP38、ERK1/2、P65でリン酸化が確認され、抗酸化剤を添加することにより上記のリン酸化が有意に抑制されており、抗酸化剤であるNACは下流シグナルにも影響を与えていることが判明した。さらに、TNF-α添加によって誘導されたERKおよびP65のリン酸化もNAC投与により抑制される結果が得られた。最後に酸化ストレスがヒト黄色靭帯細胞においてコラーゲン産生に及ぼす影響を調査するため、BSOおよびBSO+NACを添加し、プロコラーゲン1型αのタンパク分泌をELISA法で評価したところ、BSOで上昇したプロコラーゲン1型αのタンパクはNACを添加することで有意に抑制されることが判明した。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
J Clin Med
巻: 12 号: 3 ページ: 808-808
10.3390/jcm12030808