研究実績の概要 |
研究4年目にあたる本年度は,大切な方と死別した認知症のある方の支援モデル構築のために,悪いニュースの伝え方に関して文献検討を行った.悪いニュースには,死別の開示の他に,認知症の診断の開示があり,こちらは,2000年代初頭から研究が増加し,数件のシステマティックレビューが存在している.診断の開示に関する研究について 2000 年代から10 年間を振り返ると,まず,認知症の方に関わる専門職や研究者の倫理的議論が行われ,次の段階で,開示に関わる人々の意見の探求がなされている.その後,開示がいかに行われるかの検討という順番で,議論が展開している. 一方,認知症の方への死別の開示に関する研究はまだ数例しかない.Gruetznerらは,認知症のある人は記憶が難しいため,家族は死別した者について何度も尋ねられ,毎回,事実を伝えると本人にダメージを与えるため,認知症のある人に死別を伝えるか否かの判断は,家族介護者にとっては難しいことだと述べている.同様のことはGriefやRentzなども言及している.認知症デイケアセンターの専門職を対象にしたBerenbaumらの研究では,認知症デイケアセンターの利用者の死について,6割の専門職がグループメンバーに伝えるとした.また,認知症のある人が,利用者の死について4割の職員が「わかる」と回答したが,4割の職員が認知機能の能力による,1割の職員が死別した者との関係性によると回答した.Wernerは,研究の対象者が欧米の白人といった,同一の民族から構成された集団が多く,異なる民族において研究されるべきことを指摘している. これらのことから, 大切な方と死別した認知症のある方への死別の開示は認知症の診断の開示と類似の経過をたどる可能があること,また,日本文化的視点を含めた支援モデルの構築が求められていることが明らかとなった.
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