研究課題/領域番号 |
20K20426
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補助金の研究課題番号 |
19H05498 (2019)
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 (2020) 補助金 (2019) |
審査区分 |
中区分14:プラズマ学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 弘司 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20200735)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,610千円 (直接経費: 19,700千円、間接経費: 5,910千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2020年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2019年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
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キーワード | 磁場閉じ込めプラズマ / 放射崩壊 / ディスラプション / サポートベクターマシン / 全状態検索 / スパースモデリング / 異常検知 / 機械学習 / 全状態探索 / 突発破壊現象 / 運転限界 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的はデータ駆動型アプローチにより、核融合エネルギーの実現を目指した磁場閉じ込めプラズマの挙動について、要素還元によるモデル化や統計回帰解析による帰納的な推定を越えた発見的な仮説を提案することである。1億℃にもなる超高温プラズマは乱流や電磁流体力学不安定性が、時空間スケールの階層を越えて相乗する非平衡開放系の典型である。このようなプラズマを対象として、状態の存続時間及びその存続を突発的に破壊する現象の予知に焦点を当てる。統計的因果探索を機械学習を軸として進め、突発破壊現象の予知につながる仮説を導く。その仮説のモデル化により安定な運転制御の提案を行う研究である。
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研究実績の概要 |
磁場閉じ込めプラズマの突発的破壊現象は核融合炉の機器保全・運転制御に関わる重要な研究テーマであるともに、臨界不安定性の発現という物理の理解による。サポートベクターマシン(SVM)と全状態検索(ES)を組み合わせたデータ駆動型研究により、これらの突発的破壊事象の発生確率を定量的に評価できる汎用性の高い方法論を開発してきている。これまで実証してきたスパースで実効的な予知モデルを構築する手法を、プラズマの非接触化発現条件及びプラズマ輸送が劇的に変化するHモード遷移条件の同定に応用した。非接触化は核融合炉における壁熱負荷を軽減するために必須の運転である。大型ヘリカル装置実験をプラットフォームとし、摂動共鳴がもたらす周辺磁場構造の変化が鍵となっていることへの指摘に、広範な運転磁場強度、プラズマ密度、そして不純物ガス印加による放射損失の増大効果を合わせて、汎用性に優れた分離モデルを得ることができた。このモデルは、不純物ガスを印加しない制限された範囲からのモデルと同等の分離性能を、不純物ガスを印加した場合を含めて示すものである。Hモード遷移については広範な実験データベースの解析により、最近の個別実験での詳細研究に符号する結果が得られた。これらのES-SVM解析は相関関係の指摘に留まるため、時系列データの特異値分解による異常検知により、因果関係のヒントにつながる物理データ間の異常事象が起こる前後関係を調査した。これらの研究成果について、国内学会で3回、国際会議で2回の発表を行った。これまでの本研究課題の成果による「核融合プラズマ崩壊事象のサポートベクターマシンと全状態検索による確率評価法の開発と応用」に対して、プラズマ・核融合学会の技術進歩賞を受賞した。 また、プラズマ科学におけるデータ駆動研究のレビュー論文を分担し、出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響により海外展開よりも国内の大型実験装置での実験データ解析を重点的に進め、その高度化を進めてきている。対象や方法論を拡充できるともに、応用も図られており、研究の進捗状況はおおむね順調に進展している。データ駆動型アプローチによって、トカマクの電流崩壊(ディスラプション)現象やヘリカル系での放射崩壊の発生有無の分離境界から距離によって、崩壊発生の蓋然性すなわち確率を定量的に評価できることを明らかとした。さらにこの確率を実時間で計算することにより、帰還制御を行い、崩壊を回避する運転を実証することができている。これらの研究成果によって、量子科学研究開発機構JT-60共同研究優秀賞およびプラズマ・核融合学会技術進歩賞を受賞することができた。さらに、この分離モデルの汎化性能を評価するとともに、得られたモデルの一般化を進めるために、拡大されたデータセットでの検証を進めた。放射崩壊においては、プラズマ周辺部での放射損失による冷却が鍵となっていることは自明であるものの、通常のケースでは、密度を上げることによって放射が増大されることから、放射損失が明示的には分離モデルに入ってこない。このため、意図的に不純物ガスを印加し、放射を増大させる実験から得られたデータを含めて解析することにより、放射損失が密度に代わって特性プラメータとなり、かつ分離性能において遜色のないモデルを構築することができた。このことは、ES-SVMの手法が特性パラメータの選択において冗長性を持ち、データ欠損に対して尤度があることをも示している。Hモード遷移においてもこの手法の有効性を示すことができた。また、これらの崩壊有無の分離条件は相関関係の留まるため、因果関係の考察につなげるべく、時系列データの特異値分解による異常検知の研究を進めている。放射の増大後に磁気島が成長するなど、事象の前後関係が同定されてきている。
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今後の研究の推進方策 |
目的を達成するために,これまでの実績をもとに手法の高度化とモデルの汎化性能の向上を図っていく。機械学習では帰納論理に限界があるため,信頼性を高めるには異なった物理的考察と組み合わせることが肝要である.このため、モデルの汎用性・外挿性の検証という観点から、ネオンガス入射などの能動的実験が有効である。モデルの説明可能性が追究できるサポートベクターマシンによる2値分類と全状態検索によるスパースモデリングに加えて、特に抽出された特性パラメータの時系列データに注目している。特異値分解による異常検知によって同定された、物理的変化の時間的前後関係はシミュレーションとの対比において理論モデルの妥当性検証に資するところが大きいと期待できる。この考察はトカマクHモード遷移や周辺局在モードの検知モデルにも利用を図る。次に、特に非接触プラズマの発現条件の同定からさらに進めて、その状態維持すなわち存続時間についての考察を進める。非接触プラズマの維持は放射崩壊と接触プラズマへの回帰遷移の間の状態であり、この二つの状態への分岐条件をこれまで開発してきた手法によって同定する。また、異常検知による物理量の時系列変化及びこれらの分岐(接触から非接触へ、非接触から放射崩壊あるいは接触へ)におけるヒステリシスを探っていく。本研究課題は令和6年度で終了となることから、得られた知見から将来の実験における破壊の予知と回避の制御、安定な非接触運転の存続、LH遷移を容易とする運転制御等に関する示唆と方法論をとりまとめていく。これらによって、放電パターンという集団の統計的性質を固有の放電の時間変化に当てはめることができるか、ひいては過去の出来事についての既知の事実が,未来の出来事についての予測に理由を与えることができるか?という問いに対する学際的な議論の糧とする.
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