研究課題/領域番号 |
20K20431
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補助金の研究課題番号 |
19H05505 (2019)
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 (2020) 補助金 (2019) |
審査区分 |
中区分19:流体工学、熱工学およびその関連分野
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 洋平 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00344127)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2021年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2020年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2019年度: 11,700千円 (直接経費: 9,000千円、間接経費: 2,700千円)
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キーワード | 全反射ラマン分光法 / 全反射ラマン散乱光イメージング法 / ラマンスペクトル解析法 / 水分子動態 / 水素結合状態 / イオン動態 / イオンの水和 / 細胞内液 / 全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法 / 水分子挙動 / 振動モード状態 / イオン挙動 / 細胞内イオン濃度分布 / 細胞遊走 / 細胞内金属イオン濃度空間分布 / 全反射・多波長ラマン散乱イメージング法 / 水分子の振動モード状態 / 水分子の水素結合状態 / 水分子動態の時空間マッピング / 細胞内金属イオン空間分布 |
研究開始時の研究の概要 |
水分子の振動モード状態および水素結合状態の空間分布を,世界に先駆けて実験的に非侵襲計測を行う全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発に挑む.初年度は,1種の金属イオンを,2年度は2種の金属イオンの混合溶液を対象とする.最終年度は,レーザ光の全反射により発生する微弱なエバネッセント波を細胞膜近傍に照射し,細胞内液において支配的な金属イオンの濃度空間分布の同時取得を実現する.正常細胞および癌細胞に適用し,イオン濃度空間分布の違いを明らかにする.本挑戦的研究にて得られる重要な知見は,癌転移のメカニズム解明に多大な貢献をもたらすと期待され,医工学の基盤を大きく転換させるポテンシャルを有している.
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研究実績の概要 |
本研究では、分子動力学シミュレーションでさえも不可能であった、電解質溶液における水分子およびイオンの動態を、潜在的に困難と思われてきた全反射ラマン顕微法(ラマン分光法およびラマン散乱光イメージング法)の開発により解明を行う。そして、細胞内液への適用を試みて、イオン介在による水分子動態の空間分布の解明を実験的に実現することを目的としている。イオン介在による水分子からの微弱なラマン散乱光には、様々なノイズが含まれており、国内外の過去の研究においては、ノイズを完全に除去し、水分子動態を精確に明らかにした例は皆無であった。昨年度まで、様々なノイズの要因の特定、そして除去を行い、本年度は、下記の水分子およびイオンの動態を明らかにした。 1.バルク領域を対象とした体積照射ラマン顕微法、そして界面極近傍領域を対象とした全反射ラマン顕微法により得られたラマンスペクトルの新たな解析法の提案を行った。具体的には、イオン介在による水分子の水素結合状態変化に特化したMCR法、濃度変化に応じたイオンそのもののスペクトル抽出に特化したSCスペクトル法、そしてイオンに引き寄せられる水分子に特化したRD-SCF-H2O法である。 2.イオン介在による水分子の振動モード変化は顕著ではなく、解析対象としては不向きであることが明らかとなった。一方、水分子の水素結合状態は、MCR法を適用することにより、イオン種、イオン濃度、対象領域に応じて顕著に変化していることが明らかとなった。 3.SCスペクトル法による、イオンそのもののスペクトル抽出した結果、イオン種および対象領域に応じて顕著に変化していることが明らかとなった。 4.本研究では、イオンに引き寄せられる水分子の数を、「水分子誘引数」と新たに定義し、RD-SCF-H2O法を適用することにより、イオン種、イオン濃度、対象領域に応じて顕著に変化していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初は、国内外の過去の信頼のおける研究と同様に、イオン介在による水分子からの、微弱なラマン散乱光に含まれている様々なノイズを除去せずに、解析を行っていた。しかし、再現性を担保し、物理的に不変な解釈ができる実験結果を得ることがなかなかできなかった。そこで、昨年度は長い時間を費やし、様々なノイズを特定し、理想的な結晶構造を有し自家蛍光の無いフッ化カルシウム基板の製作を行い、ノイズの影響を極力受けないラマンスペクトルの取得に成功した。その後、このラマンスペクトルに、国内外の過去の研究で提案されてきた解析法を適用して物理的解釈を試みたが、論理的かつ統一的な解釈が困難な結果しか得られなかった。そこで、本年度は、一つひとつの実験の再現性を検証し、新たな解析法の開発に長い時間を費やすことを決意したため、進捗状況が遅れた。特に、長い時間を費やしたのは、RD-SCF-H2O法の開発であった。古典化学では、イオン種毎の水和数の値が、幾つも提案されているにも関わらず、水和数に関する実験的研究が数例しかなく、更に分子動力学シミュレーションから得られた水和数と異なっていることが、残念ながら判った。即ち、水和数に関しての正しい知見が全く存在していないと云える。そこで、陽イオン種、そして陰イオン種毎に、特に水分子のOH伸縮の物理的解釈に必ず立ち返りながら、解析法の改良を積み重ね、RD-SCF-H2O法の開発に至った。古典化学における水和数の定義では、物理的な説明が困難であると判ったので、新たに「水分子誘引数」の定義に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内液に存在するイオンを模擬した電解質溶液を選定し、体積照射ラマン分光法および全反射ラマン分光法により得られたラマンスペクトルに、MCR法、SCスペクトル法、そしてRD-SCF-H2O法を適用して、イオン周りの水素結合状態、水素結合エネルギー、そして水分子誘引数との物理的関係を明らかにする。イオン種およびイオン濃度を同一にしても、界面極近傍領域におけるラマンスペクトルの形状は、バルク領域とは異なっていることが、本研究の実験結果から明らかとなっている。恐らく、水素結合エネルギーと界面電位との相互干渉が要因であると推察できるので、実験的解明を試みる。そして体積照射ラマン散乱光イメージング法および全反射ラマン散乱光イメージング法により得られたラマン散乱光イメージから、イオン周りの水素結合状態、水素結合エネルギー、そして水分子誘引数の空間分布の抽出可能な、新たな解析法の開発を行う。これらの物理的関係を空間分布に展開する、即ち、マッピング法の提案が、本研究の最終目標である。
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