研究課題/領域番号 |
20K20433
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補助金の研究課題番号 |
19H05507 (2019)
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 (2020) 補助金 (2019) |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村山 明宏 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00333906)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2020年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2019年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
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キーワード | スピントランジスタ / 光スピンダイナミクス / 半導体量子ドット / スピン増幅 / スピン位相 / スピントロニクス / スピン光機能 / 電界効果 |
研究開始時の研究の概要 |
現代の情報社会を支える電子情報処理や光通信におけるエネルギー熱損失の解決は社会的な課題である。そこで、光による信号配線と不揮発性固体メモリである電子スピンを用いた新しいエレクトロニクスの研究が重要になる。本研究では、新しい光スピン機能を持つ三端子素子として、光のスピン情報である円偏光の入力により生成する電子のスピン状態を電界により制御し、再び円偏光として出力する光スピン特性の電界効果トランジスタを研究する。電子スピンと円偏光の向きを電界により切り替え、さらにスピンや円偏光の偏り度合いであるスピン情報の増幅や、スピンの持つ本質的な情報である位相の電界制御を開拓する。
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研究実績の概要 |
現代の情報社会を支える電子情報処理や光通信においては、電力エネルギーの熱損失の解決が大きな課題である。その課題の解決に向けては、電子情報処理において、信号の配線や伝送に光を用いる光電融合エレクトロニクスと不揮発性の電子スピンメモリを活用するスピントロニクスの研究が重要である。そこでは、電子のスピン情報であるスピン偏極と光のスピン情報である円偏光特性を直接変換する光電変換素子が必要となり、金属強磁性体電極によるスピン偏極電子の電流注入により円偏光を発するスピン偏極発光ダイオードやレーザ等の二端子素子が研究されている。 本研究では、さらなる光スピン機能の開拓に向けて、円偏光の入力により生成する電子のスピン状態を外部の電界により制御可能な光スピントランジスタを研究する。電子のスピンや円偏光特性の向きの偏り度合いで与えられる偏極度とその極性をエレクトロニクスの基本技術である電界により制御し、さらに電子のスピン偏極の増幅とその電界制御を目指していく。最終目標として、スピンの本質的な情報であるスピン位相の電界制御にも挑戦する。 本年度は、昨年度に引き続き、InGaAs量子井戸とドットの結合量子構造を用いる電子と光のスピンを電界で制御する発光デバイスについて、実用に繋がる室温動作を確立するため、高温動作に適した井戸厚や組成、ドーピングプロファイルやその濃度、トンネルバリア膜厚などの設計と作製を行い、光スピン出力特性の評価を進めた。さらに、室温以上で高いスピン偏極特性とその増幅効果が期待される希薄窒化GaNAs量子井戸とInAs量子ドットを組み合わせた新規な電界効果素子を作製し、量子ドットに注入する電子スピンの偏極特性とその増幅機能、特に室温を含めた高温領域での電界動作特性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、二次元電子系であるInGaAs量子井戸と量子ドットからなる独自の結合構造を用いた光学活性層を持つ電界効果型スピン機能発光デバイスを作製し、室温までの温度領域でその動作特性を明らかにした。井戸から注入されたドット中の電子スピン偏極状態を実時間で検出可能な円偏光発光の時間分解測定と、印加電界と動作温度に対する詳しい依存性の研究を行い、量子ドットという限られたナノ空間で効率的に働く電子・正孔スピン散乱による電子スピン極性の非対称反転速度などの詳しいスピン反転ダイナミクスの温度依存性を明らかにした。 本年度は、以上の知見に加えて、室温においてスピン偏極の増幅機能を持つ希薄窒化GaNAs量子井戸を電子スピン源となる円偏光受光層に活用し、スピン偏極発光層となるInAs量子ドットとトンネル結合した、世界的にも新規の量子構造による光スピン活性層を持つ電界効果型光スピン素子を作製し、室温までの動作特性を研究した。その結果、室温において、2 V以下の電界により電子と光のスピン偏極度を20%以上の範囲にわたって制御することができた。また、詳しい時間分解円偏光発光分光の電界依存性の測定から、GaNAs量子井戸中で電子のスピン偏極が増幅されることに加えて、増幅されたスピン偏極電子のドットへの注入ダイナミクスをも電界で制御できることを明らかにした。 さらに、GaNAs中の電子スピンの歳差運動による伝導電子スピンの位相振動を直接計測するため、円偏光と試料に対して精度の高い横磁場の印加を可能にする電磁石を用いる時間分解発光分光測定系の構築を行い、測定を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に達成した、電子と光のスピン偏極増幅機能を持つ希薄窒化GaNAs量子井戸とInAs量子ドットのトンネル結合からなる新規の量子構造を持つ電界効果型光スピン素子について、室温において電界による高精度のスピン偏極制御を確立するための研究を推進する。GaNAs層の窒素組成や井戸膜厚、ドットとのトンネルバリア膜厚などを変えた試料を作製し、また、時間分解円偏光発光分光の電界依存性の測定を組み合わせることにより、GaNAs量子井戸中の電子スピン偏極の増幅と増幅されたスピン偏極電子のドットへの注入ダイナミクスの電界制御手法を確立していく。 現状、20%以上の非常に高いスピン偏極度の電界制御範囲を室温で得ているが、低温ではスピン偏極の電界による極性反転制御が可能になっており、このような電界によるスピン極性反転操作の室温動作が最終的な課題である。これまで得ている知見により、量子ドットのサイズなどの構造不均一性により量子準位エネルギーの不均一性が生じているが、このことがGaNAs量子井戸からドットへのスピン注入を担うトンネル結合の不均一性に大きな影響を与えていることがわかってきた。そこで、構造の均一性を高めた量子ドットの成長条件など検討していく計画である。 また、GaNAs中の電子スピンの歳差運動による伝導電子スピンの位相振動に対する電界効果の研究を進め、電子スピンの位相情報に対する電界制御手法の開拓を進めていく。
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