研究課題/領域番号 |
20K20472
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補助金の研究課題番号 |
19H05564 (2019)
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 (2020) 補助金 (2019) |
審査区分 |
中区分55:恒常性維持器官の外科学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 倫孝 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (80256510)
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研究分担者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 総括研究主幹 (60371085)
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,090千円 (直接経費: 19,300千円、間接経費: 5,790千円)
2022年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2021年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2020年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2019年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 光治療 / ランタニド・ナノ粒子 / がん治療 / プログラム細胞死 / 光プローブ / 深部がん治療 / 光操作 / 近赤外光 / アップ・コンバージョン / 癌治療 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、光イメージング技術を基盤として、新たな癌治療および診断法開発の可能性を探るものである。具体的に、以下のようなユニークな探索的研究を遂行する。 細胞実験あるいは小動物実験により、癌細胞に照射した長波長である近赤外光を、癌細胞上(あるいは細胞内)に送達したランタニド・ナノ粒子(LNP)により短波長の青色光に変換し、可及的癌細胞に限定した機能制御(細胞死誘導、生存能低下)を試みる。これにより、新たな治療法の開発が可能かどうかを検討する。
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研究実績の概要 |
本研究は光イメージング技術を基盤として、新たな癌治療および診断法開発の可能性を探ることを目的としており、“光”の特性を利用した強力で特異的かつ副作用の少ない光治療法の開発を目指している。この研究は癌をはじめとした疾患の低侵襲で繰り返し施行可能かつ安価な治療技術の開発につながる意義を持っている。 本研究では長波長で低エネルギー、組織透過性の比較的高い近赤外光と、その光を短波長の青色光に変換することが可能なランタニド・ナノ粒子(LNP)の組み合わせにより、低侵襲で深部病変まで効果を示す光治療法の検討を進めているが、本年度も引き続き青色光誘導性遺伝子発現システムの詳細な検討、そしてターゲットの探索と癌細胞での機能性確認を中心に研究を進めた。 青色光誘導性遺伝子発現システムの検討については検討対象を癌細胞まで広げ、様々な細胞株での条件検討を進めた。また、同系をもちい、近赤外光とLNPによる青色光を用いたテストと条件検討を進めた。がん細胞死誘導のためのプログラム細胞死の探索は、これまでのアポトーシス、パータナトス、ネクロトーシスの3つのプログラム細胞死に加え、パイロトーシス細胞死を誘導する候補遺伝子についての検討を追加した。これらのターゲットの対象細胞については、非癌細胞から種々の癌細胞株に広げ、一過性導入後の細胞死誘導能を検討した。その結果、癌細胞でも有効な遺伝子を選定することができ、さらに同じ癌細胞でも癌腫によってその効果に相違があることが分かってきた。 これらの検討により、ある種のがんに対して機能性を示すターゲットが選定され、これらを青色光誘導性遺伝子発現システムへ導入する準備が整った。この後、青色光および近赤外光―LNPを介した青色光での機能性の解析に段階を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度も令和3年度同様に、コロナ感染の持続・拡大により、光照射機器、試薬およびディスポーザブル等の調達に予想以上に時間を要した。それにより、一部の検討で解析の遅延が生じた。 研究自体は当初の計画に基づき進めているが、がん細胞死誘導のためのプログラム細胞死ターゲットの選定については、予定よりも広範なプログラム細胞死を対象にして解析をすることになった。これはより有効な細胞死誘導遺伝子を見つけるために必須な段階であったため、当初の予定より若干多くの時間を費やしたが、この検討の結果、最終的により有効なプログラム細胞死を選び出すことが出来た。 さらに本年度は、導入する癌細胞種と細胞死誘導効果の評価も検討することができ、ターゲットの有効性に相違があることも明らかになってきた。この結果は、今後の検討における細胞種選定に役立つばかりか、実際に疾患治療に応用する際の癌種やターゲットの選択に役立つ知見が得られ、さらに広い癌細胞を考慮する必要性についても考慮できた。 また一方で光照射システムの検討時に、光照射部位の温度上昇が観測された。長時間の照射で細胞に温度による傷害を与える可能性が考えられるため、引き続き光照射条件の検討をする必要性が考えられた。 以上の通り一部の検討は前述の理由で遅延しているが、その一方では追加検討や新たな知見を明らかにすることができ、新たな課題も挙がったことが本年度の研究成果となった。このような状況で、本研究課題は当初の予定に沿って進捗しているが、全体的な解析にはやや遅れが出ているため、研究の進捗としては「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究期間を延長して、当初の計画に従い、次の項目について研究を進める予定である。ⅰ)LNPのアップ・コンバージョンによる細胞内分子操作系の条件検討、ⅱ) 近赤外光―LNPによる青色光によるターゲット遺伝子の機能確認、ⅲ)担癌マウスモデルによる癌細胞治療法の検討。さらに、これまでの研究で挙げられた追加検討項目や課題にも取り組んでいく。 ⅰ)LNPのアップ・コンバージョンによる細胞内分子操作系の条件検討:近赤外光―LNPによる青色光を用いた遺伝子発現システムの条件検討を引き続き行う。特にこれまでの研究で、光照射による照射部の温度上昇が観測されているため、適度な間隔と光強度の条件検討を追加する。 ⅱ)近赤外光―LNPによる青色光によるターゲット遺伝子の機能確認:ターゲットとして選定したプログラム細胞死誘導遺伝子について、まずはHela細胞(扁平上皮癌細胞株)へ導入を行い、近赤外光―LNPによる青色光にて、細胞死誘導を検討し、最適な光条件(光照射の回数・時間・強度など)を検討する。その際、ⅰ)と同様、光照射による細胞傷害性を起こさない条件も考慮したい。 ⅲ)担癌マウスモデルによる癌細胞治療法の検討:ヌードマウス等を用いて、癌細胞株を皮下あるいは腹腔内に移植するモデルを使用する。まずは細胞死誘導遺伝子を導入した細胞とLNPを移植し、近赤外光の照射による光治療効果(腫瘍縮小効果の有無)を検討する。動物モデルでは、細胞とは光照射の条件が異なってくるため、有効な効果が得られない場合は、適宜、コントロール遺伝子(ルシフェラーゼ)を利用し、条件検討を進める計画である。機能性が確認できれば、順次、種々の癌細胞で同等の条件下での腫瘍縮小効果の評価を進める。 これらの検討により、癌細胞のプログラム細胞死を誘導する光治療システムの基盤を作り上げる計画である。
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