研究課題/領域番号 |
20K20474
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補助金の研究課題番号 |
19H05566 (2019)
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 (2020) 補助金 (2019) |
審査区分 |
中区分56:生体機能および感覚に関する外科学およびその関連分野
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
山田 哲司 東京医科大学, 医学部, 客員教授 (30221659)
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研究分担者 |
弘實 透 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70594539)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2021年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2020年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2019年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | 骨肉腫 / Wntシグナル / TNIK / 遺伝子転写 / 分化転換 / ゲノム / エピゲノム / がん幹細胞 / 細胞分化・系譜 / 次世代シーケンサー / 遺伝子リプログラミング / クロマチン免疫沈降 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は最近、大腸がんのWntシグナルの抑制を目的として開発したTRAF2 and NCK-interacting protein kinase (TNIK)阻害化合物NCB-0846が、骨肉腫細胞の遺伝子転写をリプログラミングさせ、脂肪細胞へ分化転換させる従来にない特徴を持つことを明らかにした。本研究は網羅的なゲノム・エピゲノム解析でNCB-0846による遺伝子転写リプログラミングの全体像を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
我々が開発したNCB-0846 (Masuda et al., Nature Commun., 7:12586, 2016)は、MYCの近位プロモーターに結合する転写因子TCF4のco-activatorであるTRAF2 and NCK-interacting protein kinase (TNIK)の高次構造を変化させることで、その転写共役機能を抑制するallosteric modulatorであり、MYCの発現を抑制し、その標的遺伝子群をリプログラミング(再構成)することで抗腫瘍効果を発揮することが明らかになった。
この知見を治療薬として実用化するため、NCB-0846の誘導体285種をMYCの発現抑制でスクリーニングし、新たなキナゾリン誘導体YMD-0046を発見した。令和3年度には次世代シーケンサーを用いた発現解析を行い、YMD-0046の被制御遺伝子をゲノム網羅的に同定した。また、MYCとTCF4に特異的なモノクローナルを用いてクロマチン免疫沈降を行い、作用する遺伝子転写制御領域(エンハンサー・プロモーター)をゲノム網羅的に同定し、転写因子結合モチーフを確認した。さらに、遺伝子発現解析との統合解析でMYCとTCF4が直接制御する遺伝子と間接的に制御する遺伝子を判別し、階層的な転写制御の全体像を明らかにすることが出来ている。
令和4年度には、TNIK (TRAF2 and NCK-interacting protein kinase)の共結晶のX線構造をもとに、YMD-0046の特定の側鎖2か所とコア構造を系統的に改変した誘導体24種を合成し、これらの改変によって理論通りに高活性・高選択性のみならず、YMD-0046の問題点であった疎水性が著しく改善することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大腸がんのWntシグナルの抑制を目的として開発したTNIK阻害化合物NCB-0846が、広範な遺伝子転写リプログラミングによって骨肉腫細胞を脂肪細胞へ分化転換させることを本課題で明らかにした。NCB-0846による広範な遺伝子転写のリプログラミングは、スーパーエンハンサー領域のDNAメチル化やヒストンアセチル化等のエピゲノミック制御によるクロマチンリモデリングに起因すると当初考えていたが、次世代シーケンサーで網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、がん遺伝子MYCの転写抑制がNCB-0846の主な作用機序(Mode of Action)であることが明らかになった。
令和4年度にはYMD-0046の特定の側鎖2か所とコア構造を系統的に改変した誘導体24種を合成し、これらの改変によって理論通りに高活性・高選択性のみならず、YMD-0046の問題点であった疎水性が著しく改善することを明らかにした。
MYCは全悪性腫瘍のうち最も高頻度(14%)に遺伝子増幅するがん遺伝子であり、多くの製薬企業がその阻害薬開発を試みているが、成功したものはない。我々が発見した新規キナゾリン誘導体は低濃度でMYCの発現を完全に抑制できることから、first-in-classの新たな治療薬として実用化できる可能性が高く、当初の計画以上の成果が得られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
我が国ではOncoGuide NCCやFoundationOne CDxなどの「がん遺伝子パネル検査」が保険収載され、個々のがん患者のドライバー遺伝子を特定して最適な治療薬を選択する所謂「ゲノム医療」の推進が期待されている。本研究開発課題は、MYC遺伝子の増幅のある腫瘍細胞に対して低濃度で、選択的に殺細胞効果を示す新規キナゾリン誘導体YMD-0046は、骨肉腫以外でも、大腸がん、トリプルネガティブ乳がん、小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、小児小脳髄芽腫(希少がん)、骨肉腫(希少がん)、滑膜肉腫(希少がん)等の有効な治療法がなく難治性のMYC遺伝子増幅腫瘍に対する第一選択薬として実用化できることが期待できる。
令和3年度の日本医療研究開発機構の革新的がん医療実用化研究事業に研究開発課題「がん遺伝子MYCの転写を標的とした治療薬の開発」が採択され、令和5年度末までにIND (Investigational New Drug)-enableな各種非臨床試験及びGLP (Good Laboratory Practice)に準拠した毒性試験を終了させることを目標とした研究開発が進んでいる。
化合物の物質特許「新規キナゾリン誘導体」は、日米中韓印に続き欧州でも査定となり、令和4年7月13日に登録番号3078660を収得した。また、英独仏西伊への国内移行手続きが完了した。YMD-0046から改変した側鎖が化合物の活性と選択性の向上に重要であることは新規の知見であり、選択発明を出願する予定である。
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