研究課題/領域番号 |
20K20547
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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研究分担者 |
後藤 真人 京都大学, 化学研究所, 助教 (10813545)
市川 能也 京都大学, 化学研究所, 技術職員 (70365691)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2021年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2020年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 遷移金属酸化物 / 熱量効果 / エントロピー変化 / 高圧合成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近年さまざまな形で顕在化してきている熱に関する諸問題の解決に資する新規なマルチ熱量効果材料の開拓を目指すものである。注目点の一つは、磁気エントロピーの変化を利用した磁気熱量効果による磁気冷却である。特異な磁気転移を示す遷移金属酸化物が新規な磁気熱量効果材料となり得ること、さらにはこのエントロピー変化による熱量効果を複数の外場により制御する「マルチ熱量効果」となることの実証を目指す。本研究により、従来材料とは異なる巨大なエントロピー変化の本質を解明するための学理の構築とその応用展開へ向けた新材料の開拓も国際共同研究を含めて展開する。
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研究実績の概要 |
本研究は、近年、熱に関する問題がさまざまな形で顕在化する中で、社会からも強く求められている熱エネルギー問題の解決に資する新材料の開発を目指すものである。その中で特に熱量効果を示す新材料に注目して研究を行っている。 これまでにAサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物NdCu3Fe4O12における巨大圧力熱量効果と同構造のBiCu3Cr4O12でのマルチ熱量効果(圧力熱量効果と磁気熱量効果)を発見してきた。この両者における熱量効果の発現は、電荷‐スピン‐格子が強く相関した物質系において起こる1次の電荷転移に誘発された磁気エントロピー変化に起因するものであると考えている。特にNdCu3Fe4O12でのFeイオンの磁気モーメントの温度変化やBiCu3Cr4O12でのCuおよびCrイオンの磁気モーメントによるフェリ磁性の温度変化をみると、通常の磁気相互作用に基づく2次の相転移とは大きく異なる特異な1次転移を示していることが明らかとなった。これは、本質的には高い磁気転移温度を内在しているにも関わらず、電荷転移により磁気転移が抑制され、結果的に電荷転移によって磁気転移が誘起されていることを示している。このような電荷転移により誘発される磁気転移はこれまでには観測されていな特異なものである。特に大きな熱量効果を示す新材料の設計にあたり、この新たなメカニズムはその開発指針ともなるものである。 また本研究では、放射光X線および中性子などの量子ビーム大型施設を使った実験による精密な結晶構造解析データによる構造と熱物性の相関の解明を進めている。2022年度は国内放射光X線施設での実験参加が可能となったが、海外での実験に参加することは出来なかった。それでも、台湾放射光X線実験施設へは試料を送付してデータ収集を依頼する形で国際共同研究実験も復活させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
巨大圧力熱量効果およびマルチ熱量効果を示す新材料の合成に成功し、これらの実験結果を基に、さらに巨大な熱量効果を示す新材料開発の物質設計指針として、強い磁気相関を有して電荷転移を示す物質というアイデアを提案することができた。特にマルチ熱量効果では、多角的な手法により高効率に熱制御を実現できる新しいエネルギー材料を開発することが可能となり、環境・エネルギー問題の解決にも資する重要な成果が得られてきている。 一連の成果により、特異な電荷転移を起こす異常高原子価状態や混合原子価状態を安定化させる高圧合成法が新物質開発において極めて有力な手法として機能していることも示した。さらに、放射光X線、中性子の相補的な特徴を活かした結晶・磁気構造解析の結果を合わせることで構造と熱物性の相関を解明し、異常高原子価イオンを含んだ酸化物での電荷‐スピン‐格子が相関した相転移の重要性を示すことができた。この物性相関にエントロピーという新機軸を加えることができた点は非常に大きな前進である。 また、今年度は昨年度に発表した論文成果が注目されたこともあり、幾つかの学会や研究会で招待講演も行い、社会からの環境に優しく高効率な熱制御材料の開発に対する高い関心に応えることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では引き続き、より大きな熱量効果を示す物質や最適動作温度を制御した材料を含めた新物質開発をAサイト秩序型ペロブスカイト構造関連酸化物を中心に発展させる。特に異常高原子価イオンおよび混合原子価イオンを含んだ遷移金属酸化物に注目し、電荷―スピン―格子が相関した相転移を示す材料の物質合成を進める。強い磁気相関を有して内在的磁気転移温度が高い物質で、電子状態の不安定性から電荷転移を示す物質が主要なターゲットである。新物質合成では、高圧法や低温トポタクティック物質変換を中心とした合成手法に適宜改良を加えており、これらの特異な手法を駆使して実験を引き続き進める。 また、熱量効果を含めた熱物性のより深い理解へ向けて、理論計算の研究者との議論を始める予定である。 さらに2023年度からは放射光X線および中性子などの量子ビーム大型施設を使った実験を、海外を含めた施設で本格的に再開する計画である。放射光X線回折実験のプロポーザルは、国内SPring-8、台湾NSRRCで既に幾つか課題採択が決定しており、現地での実験に参加してデータ収集する予定である。また、中性子回折に関しても英国中性子実験施設ISISへプロポーザルを提案した。ただし、ISISは安全対策上の問題で現在ターゲットステーション(TG)1の課題受付を停止しており、TG2での実験のみ可能となっており、課題採択数も大幅に絞っている状況である。そのため、提案済のプロポーザルで2023度に実験ができなかった場合には、再提案により次年度での実験を目指す。
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