研究課題/領域番号 |
20K20586
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東樹 宏和 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (60585024)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2022年度: 8,710千円 (直接経費: 6,700千円、間接経費: 2,010千円)
2021年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2020年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
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キーワード | 時系列動態 / 生態系 / 生物群集 / 微生物 / 微生物叢 / 生物間相互作用 / 群集動態 / 代替安定性 / 群集の安定性 |
研究開始時の研究の概要 |
微生物学・ゲノム科学・分析化学・生態学・数学を融合し、微生物群集(微生物叢)の動態を予測・制御する科学的アプローチを確立する。 多数の種で構成されるシステムの制御は、これまで不可能とされてきた。しかし、これまでの予備研究で開発した技術を応用すれば、生物叢動態の予測と制御に関する基盤技術を世界に先駆けて構築できると期待される。生物叢の動態をほぼリアルタイムに予測する分析システムと時系列分析に関する理論生態学・数学を融合し、生物群集や生態系を科学的に制御できる研究対象へと昇華させる。
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研究実績の概要 |
DNAメタバーコーディングによって得られた数千にのぼる生物群集サンプルの情報に基づき、その時系列動態の解明を行った。特に、人腸内細菌叢の時系列動態等において、「dysbiosis」と呼ばれているような、急激な群集構造(および生態系機能)の変化が起こる現象に着目し、その予兆を捉えることができるか、詳細な分析を行った。急激な群集構造の変化は、2通りの理論的枠組で捉えることができる。1つ目は、代替安定状態間のシフトである。変化前と変化後の群集構造が、それぞれ異なる平衡点(次元0のアトラクター)近傍にあるとすると、その平衡点間のシフト、という形でdysbiosisを捉えることができる。2つ目の捉え方は、複雑な形状のアトラクター上(非整数の次元をもつアトラクター)の動態という捉え方である。従来の群集生態学においては、前者は、代替安定状態(alternative stable states)という概念を中心に発展し、後者はカオス時系列動態として理論的に発展してきた。しかし、種多様な生物群集の時系列データ自体がこれまでほとんど存在してこなかったため、この2つの捉え方を整理して実証研究と理論研究をフィードバックさせるような取り組みは例がなかった。本研究プロジェクトにおいて得られた大規模生物群集時系列データによって、この2つの理論的枠組の間で整理を行うことが可能となった。複雑微生物群集の時系列動態を理論的に整理した上で、膨大な実証データでその枠組を検証した論文が、微生物学のトップジャーナルの1つであるMicrobiome誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の出版論文の中で、異なる平衡点(次元0のアトラクター)間のシフトとして大きな群集構造の変化を捉えるため、統計物理学のアプローチから、energy landscape analysisという手法を応用した。この手法によって、群集構造の「安定性地形」の形状を推測することが可能となり、各時間点における群集構造が、どの代替安定状態に属しているのか、判定することが可能となった。また、複雑な形状のアトラクター上(非整数の次元をもつアトラクター)の動態という捉え方の観点では、empirical dynamic modelingという非線形力学的な手法を用いて、アトラクター形状の再構成を行った。このempirical dynamic modeling解析では、推定されたアトラクターの情報に基づいて、近未来(数日先)の群集構造を推測することが可能であった。ただ、劇的な変化が起こった時間点の近傍ではこの予測の精度が悪くなる傾向があった。そこで、群集構造の劇的な変化自体の予兆となる指標を探索した。上記の統計物理学のアプローチでは、stable-state entropyという指標が、未来の大きな変化を予知する上で重要であることが示された。また、非線形力学的手法では、ヤコビ行列に基づいて計算したlocal Lyapunov stabilityやlocal structural stabilityといった指標が、大きな群集構造の変化を予知する上で利用可能であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
上記の成果と並行して、ショットガン・メタゲノミクスによる機能推定から、生物群集の動態を紐解く研究アプローチを開拓している。ショットガン・シーケンシングの膨大な情報を基に、群集を構成する各種の遺伝子構成を解明すれば、基本ニッチ(fundamental niches)の重複度合いを群集レベルで評価することが可能であると期待される。また、微生物種間の代謝産物のやり取りを、metabolic modelingの手法で推定することも可能である。こうした点を踏まえ、群集レベルで基本ニッチの重複度合いを評価する指標や、代謝産物のやり取りを介した生物種間相互作用ネットワークの時系列動態を解明する手法を開発している(その一部の成果はすでに当該年度内にFrontiers in Microbiology誌に受理されている)。今後、(メタ)ゲノム情報を基に、生物群集の動態を予測する技術プラットフォームを構築していく予定である。
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