研究課題/領域番号 |
20K20638
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分64:環境保全対策およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野瀬 健 九州大学, 基幹教育院, 教授 (10301334)
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研究分担者 |
前田 衣織 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (50311858)
友原 啓介 九州大学, 基幹教育院, 助教 (40711677)
巣山 慶太郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,480千円 (直接経費: 19,600千円、間接経費: 5,880千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2021年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2020年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
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キーワード | タンパク質資源 / 有害物吸着 / 温度応答性 / エラスチン様ペプチド / 人工網モデル / 天然由来タンパク質 / マイクロプラスチック |
研究開始時の研究の概要 |
マイクロプラスチックの環境汚染が問題となる中、それらを捕集するための素材を、現在利用が進んでいない天然由来タンパク質を母体として調製することを目的とする。特に、タンパク質を高機能化するために感温性ペプチドで架橋することにより温度に依存して変化する網目構造を構築することを試みる。温度依存的に構造変化するタンパク質・エラスチンをモデルとして、エラスチン様ペプチドによる架橋反応をタンパク質に施しプラスチック粒子のサイズに対応した網目構造を構築することで、既存の石油化学製品とは異なる環境影響が非常に小さな、タンパク質性素材に結合する有害物質を除去可能で安全な吸着素材を開発することを目指す。
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研究実績の概要 |
本年度においては、前年度に引き続き天然由来タンパク質資源と合成したエラスチンペプチドを用いた複合体を作製し、それらを用いてマイクロ粒子捕集素材、および、有害物質結合性素材の調製を行った。また、新たな機能性エラスチンペプチドアナログの開発を行った。市販の牛血清アルブミン(BSA)に、合成したエラスチンペプチドを化学修飾タグとして結合し、生成したコンジュゲートの熱安定性、粒径、電子顕微鏡による微細構造の観測を実施した。ブタ大動脈およびマグロ動脈球を素材としたタンパク質溶液を原料として用い、これにエラスチンペプチドを結合させることで得られたコンジュゲートの温度応答性等の機能性に関する調査を行った。これまでの研究で、生体組織を用いてエラスチン(Elastin: E)やコラーゲン(Collagen: C)など様々な成分を含むタンパク質溶液(ECタンパク質溶液)の調製が可能となっている。今回は、得られたECタンパク質溶液とエラスチンペプチドを縮合したコンジュゲートを、温度変化によりタンパク質を沈殿、再溶解を可能とする逆遷移サイクリングの手法により精製し、高い温度応答性を有するコンジュゲート画分を調製することができた。このコンジュゲートについての、詳細な温度応答性や物質への吸着性の検討を現在実施中である。さらに、タンパク質へ結合させる、これまでのものより高機能なタグペプチドの開発として、カドミウム結合性モチーフを付与したエラスチンペプチドの開発、温度依存性発現における、末端アミノ酸として芳香属アミノ酸を付加することでより低温で凝集するようになることを見出すなどの成果を挙げた。また、それらを用いたマイクロプラスチックの吸着条件について検討を行い、現在継続して検討中である。さらに、環境化学物質の吸着性を見出し、これらについて取りまとめを行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が概ね順調に進展していると判断した理由は、以下の通りである。 本年度は、天然由来の素材として、ウシや魚の組織から作られたタンパク質溶液を用いての検討を進めた。これは、昨年度実施した、市販されているウシ血清アルブミンを用いたタンパク質素材の調製に続き、食品加工の場で用いられない部位を元にした点で、タンパク質資源の有効活用を進めるという本研究の目的にも合致したものである。10アミノ酸残基からなるエラスチンペプチドを化学修飾タグとしてタンパク質混合物に作用させ、その中から、温度変化に応答して溶液状態から凝集状態へと形状を変化させる分子素材を開発することができた。また、この生成物は、可逆的に温度を下げると再度溶解することが確認された。ウシ血清アルブミンに続き、このような機能化が達成されたことはバイオ素材開発の点から意義のあることであると思われた。また、タンパク質に結合させる化学修飾タグとして、金属イオン結合性などの機能性を持ったアナログの開発に成功を収めた。同様に、マイクロプラスチック粒子に対する結合性も本年度において確認することができた。以上のように、概ね順調に進展していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、エラスチンペプチドを結合させたタンパク質素材、コンジュゲートには微細なプラスチック粒子や有害化学物質、金属イオンなど多様な物質に対する吸着性が明らかとなった。しかしながら、現在のところ、プラスチック粒子に対する結合性についてはさらに吸着性を向上させる必要があると考えている。特に、プラスチック粒子にはその大きさに様々なバラエティーがあるため、今回調製したコンジュゲートがどのサイズを有効に吸着できるのか、その特性を調べる必要がある。そこで、基材となるタンパク質とエラスチンペプチドの量比の変更、使用するエラスチンペプチドの改良、変更などによりタンパク質素材の構造を変化させて、より有効なプラスチック粒子に対する吸着性を持つ様に検討を進める。今後は、さらに素材タンパク質の種類を増やすこと、エラスチンペプチドによる温度応答性が付与されたことに関する物理化学的、構造化学的検討、高次構造の確認、さらに効率よくエラスチンペプチドを調製する方法の開発、および、高機能性エラスチンペプチド架橋反応の開発などを実施する。また、エラスチンペプチドの簡便な調製法をより安定的にタンパク質素材の機能改良が行える様に最適化を進める。これらにより、素材タンパク質の機能化をより効果的に進めることができるかを確認する。
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