研究課題/領域番号 |
20K20652
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
高度科学技術社会の新局面
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
近藤 良享 名古屋学院大学, スポーツ健康学部, 教授 (00153734)
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研究分担者 |
小田 佳子 法政大学, スポーツ健康学部, 教授 (30584289)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | ドーピング / CRISPR-Cas9 / 遺伝子工学 / エンハンスメント / 遺伝子編集 |
研究開始時の研究の概要 |
2012年に遺伝子編集技術(CRISPR-Cas9)が開発・公開された結果、スポーツの世界に新たな局面を招来させた。すなわち、この技術開発・公開によって、人間がこれまでにない精度で自在に進化をコントロール(遺伝子編集)できるようになった。 本研究では、新たな科学技術の誕生に伴って、どのような影響がスポーツ界にもたらされるかについて、生命倫理やスポーツ倫理の視点から考察する。本研究の過程において、未来のオリンピックや競技スポーツのあり方に留まらず、「科学技術と人間・社会のあり方」も問うことになる。
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研究実績の概要 |
2022年度は研究成果の一部として次の発表を行った。演題は、「CRISPR-Cas9技術を応用した遺伝子ドーピング問題」に関する認識~スポーツ哲学者の見解から」である。その内容は、①競技レベルを左右するようなアスリートの特異体質について、キャスター・セメンヤ、エーロ・マンティランタの男女選手を対象に、ジェンダー問題を含めた諸議論を整理した。特に、遺伝的な特異体質を有する選手の登場が回避できないことから、自然変異と遺伝子工学による意図的変異との区別の困難さが明らかにされた。②ドーピングによる改造が「非自然性」で「不公正」とするなら、ドーピング禁止ルールの遵守者と違反者の機会均等が保障されないと主張する論者の見解を整理・検討した。③体細胞の遺伝子操作は、目的と異なる結果(オフターゲット、モザイク)となってもほぼ修復はできない(遺伝子介入の不可逆性)の問題は深刻である。生殖細胞系列への遺伝子操作は生まれる子(デザイナー・ベビー、アスリート)の意志を無視した不可逆な遺伝子改変の強制となる可能性が示唆された。 まとめとして、CRISPR-Cas9技術を応用した選手への遺伝子ドーピングは、いまだ有効な実用レベルにはなくフィクションのように認識されている。しかし近未来にはCRISPR-Cas9技術の応用・進化によって遺伝子治療が日常化し、治療がエンハンスメントとなる事例の出現は容易に想像できる。そのため、遺伝子ドーピングの倫理学の土台作りをしておく必要がある。薬物等ドーピングが医療技術の進展の恩恵を不正利用した歴史を考慮すれば、遺伝子ドーピングに対する先取り対応は、選手、コーチ、医師、哲学者、法学者、一般人を含めた関係者の共通認識が国際的にも必要となると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の問題意識はまさしく遺伝子編集技術CRISPR-Cas9が無制限に技術拡散していくことへの懸念である。それは「滑りやすい坂道論(slippy slope)」とも言える状態にある。特に、遺伝子工学をはじめとするテクノロジー改革に人間の意識、道徳観が追いつかない。その中で、どのような社会、人間観が望ましいかという生命倫理的問題とスポーツ界の遺伝子ドーピング問題を議論することが重要な課題であった。 その研究方法は、国際的な研究者に研究協力者として関与を依頼し、CRISPR-Cas9技術の応用がスポーツにとのような影響があるかについて、生命倫理学とスポーツ倫理学の観点、視点から考察することであった。言わば、国際的な研究ネットワークを構築して頻繁に意見・情報交換していく計画であった。しかし、研究課題の採択後の2021年以降、世界的なコロナ・パンデミックにより渡航困難な状況が継続していた。 代替としてオンラインを駆使して意見・情報交換を進め、一定レベルの成果は確保できたが、研究成果として最終報告につなげるまでには至っていない。そのため、本年度中に各国の研究者らと直接に対話する計画である。具体的には、2023年9月の国際学会大会時に半構造化インタビューを実施する計画を立て、現在、所属機関への研究倫理申請を準備している。 ここでの意見集約を踏まえて、CRISPR-Cas9技術のスポーツ界、特に遺伝子ドーピングへの応用可能性という新たな局面を迎える現状を踏まえて今後の課題を明らかにしていく。CRISPR-Cas9技術によって未来のメガスポーツは致命的な影響を被ることは疑う余地はない。この問題へのアプローチは、特設審査領域の「高度科学技術社会の新局面」に示された内容の「科学技術と人間社会との望ましい関係性」の構築にもつながるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
今回、The Issue of Gene Doping through the application of CRISPR-Cas9 technologyと題して、国際スポーツ哲学会(IAPS)の年次大会(クロアチア)で発表する。CRISPR-Cas9の開発を契機とする新たな技術に着目し、ドーピング問題と未来社会のあるべき姿を考察しようとする。また、この学会大会期間中にはこれまでの研究成果の一部発表に留まらず、スポーツ界のドーピング問題や遺伝子編集技術にまつわる生命倫理の問題について、スポーツ哲学者、スポーツ倫理学者、社会学者らに対面インタビューも実施する。その内容は以下の3点である。 ①「遺伝子治療を応用する方法」は2003年に禁止されたが、その後、CRISPR-Cas9の応用に連動した2018年のWADC「遺伝子編集技術の応用の禁止」の流れがスポーツ界にどのような影響を与えるか ②2018年のWADC「遺伝子編集技術の応用の禁止」がエリート・スポーツ、世界選手権大会、オリンピック大会等の枠組みを改編する可能性についてどのように考えるか ③遺伝子編集技術を治療ではなく、治療を超えて(beyond therapy)エンハンスメント的に利用することについて、どのような意見、考えを持っているか ここでの研究発表やインタビューを通じて、スポーツ哲学、倫理学の研究者はもとより、生命倫理、科学哲学の研究者らとも意見・情報交換することによって今後の科学技術の発展に資することを目指す。
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