研究課題/領域番号 |
20K20734
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分4:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
木名瀬 高嗣 東京理科大学, 教養教育研究院葛飾キャンパス教養部, 准教授 (80548165)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 表演芸術(パフォーミングアーツ) / 台湾 / 西洋クラシック音楽 / アイデンティティ / 歴史人類学 / クラシック音楽 / 表演芸術(パフォーミング・アーツ) |
研究開始時の研究の概要 |
近・現代台湾における(広義の)西洋クラシック音楽の受容・表現とそれを支える社会構造や文化政策、人々のアイデンティティとの関係について、フィールドワークと文献研究の両面からアプローチする。①台湾社会における「多様性」と「表演芸術」、②〈芸術〉と〈大衆文化〉との接触領域、という2つのテーマに沿って進められる。これらはいずれも文化研究の視点から見ていわば境界的な領域であり未開拓であるがゆえに、学際的で挑戦的な研究フィールドとしての可能性を有している。
|
研究実績の概要 |
本研究は、近・現代台湾における(広義の)西洋クラシック音楽の受容と社会構造、そしてそれらと人々のアイデンティティとの関係について、とくに2つのテーマ(①台湾社会における「多様性」と「表演芸術」、②〈芸術〉と〈大衆文化〉との接触領域)を焦点として文化人類学と歴史研究の両面からアプローチすることを目的に掲げている。これまで新型コロナウイルス感染症の拡大防止措置にともなう地域間移動の制限が研究遂行を阻んできたが、2022年度にはようやく現地調査を行うことができた。台湾入境時にビザ取得と隔離措置が必須であった9月には、国家交響楽団の招聘により同楽団の活動を取材し『音楽の友』誌に執筆、さらにこの滞在を利用して現地の研究協力者とともに現地調査(台湾吹奏楽史に関するフィールドワークと資料調査[彰化縣・台中市]、親愛愛楽音楽芸術実験学校と親愛国民小学の訪問・聞き取り[南投市、南投縣])を行った。その後10月から入境制限が段階的に緩和され、12月には日台両地域の国立劇場間における本格的な協働によって実現した《魔笛》公演(台中国家歌劇院)について、さらにこの滞在を利用して嘉義市国際管楽節について調査を行った(前者については同劇場の招聘を受けて取材、『モーストリー・クラシック』誌に執筆)。また3月には「クラシック音楽と台湾社会」と題し、中央大学人文科学研究所公開研究会で口頭発表した。 このほか、本研究の射程を広域的な比較研究へと拡張するための研究活動の一環として、本研究テーマに関連した日本国内における現地調査も実施し、とくに5月小千谷闘牛場で行われた《カルメン》公演については『音楽の友』誌上で報告した。また沖縄では、南大東島出身のオペラ演出家・粟国安彦の活動と沖縄でのオペラ上演史を回顧するシンポジウム(一般社団法人沖縄オペラアカデミー主催)にコーディネーターとして参画し、研究成果の一部を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延は多くの学術分野において研究の進捗に甚大な影響をもたらし、とりわけ現地でのフィールドワークを基礎とする人類学的調査においては、感染拡大防止措置にともなう地域間移動の制限により研究の遂行そのものを阻まれてきた。2022年度も前半は従前の状況が続いていたため、(本課題と共通する問題意識に基づく比較研究の素材となる)国内の地方における音楽や舞台芸術の活動を事例とした研究に重点をシフトしつつあり、その過程で新たに浮上したオペラ演出家・粟国安彦の活動と日本・沖縄での1970~1980年代のオペラ上演史に関する調査では一定の成果を上げつつある。そして9月には国家交響楽団から取材目的の招聘を受けて台湾入境が実現したことにより、それまで進捗が見られなかった台湾現地調査の扉も開けることが可能となった。12月の台中国家歌劇院からの招聘による調査と併せ、台湾で成し得た調査はいまだ基礎的な段階にとどまるものの、研究開始当初に目的として掲げた項目については一通り今後の方向性を見定めることができた。これらを総合的に勘案すると、補助事業期間の延長承認申請によって1年間の延長が承認された2022年度には、当初2年計画で目論んでいたものの1年目に相当する程度の進捗は見られた。しかし、これまでの大きな遅滞を帳消しにできるほどの展開には至っておらず、現段階での進捗状況の自己評価としては「(3)遅れている」が妥当であると考える。 上記のような状況であることから、補助事業期間の再延長を承認申請し、さらに1年度の延長が承認された。
|
今後の研究の推進方策 |
1年の延長を含めこれまでの3年度での研究は十分にその目的を果たし得ていないことから、補助事業期間の延長承認申請をおこないさらに1年間の延長が承認された。台湾での現地調査に必要な前提条件はほぼコロナ禍以前に復したと考えられる。研究費の使用状況も併せて考えれば、2023年度が最後の研究期間となる見込みである。 当初の調査項目には明示されていなかった事柄のうち、実際に調査を行う過程で浮上してきたのが、近年の台湾の文化政策におけるアーツセンターの役割、あるいはそこで行われるオーケストラやオペラなどのクラシック音楽関連の公演が持つ社会的な(ときに政治的な)含意についての考察である。これは「研究実績の概要」に記した本研究の「2つのテーマ」のうち広義には①に含まれるが、とくに2022年度に音楽雑誌への取材・執筆という名目で国家交響楽団や台中国家歌劇院からの公式な招聘を受けて調査活動を行った経験を踏まえ、当初の計画よりも深いコンテクストに分け入った研究成果が見込まれることから、この方面については今後も重点を置いて掘り下げていきたいと考えている。 また、2022年度から当初の目論見を前倒しする形で調査対象に含めている日本国内の表演芸術については、オペラ演出家・粟国安彦の活動と日本・沖縄での1970~1980年代のオペラ上演史に関する調査成果に基づいて、『沖縄タイムス』紙上での連載を依頼されており(月2回、1年間の予定)、この執筆を通じてより調査を深化させることで、本研究終了後に新たに見込まれる「日本を含む東アジア地域の表演芸術をめぐる学際的な比較研究」への足掛かりとしたい。
|