研究課題/領域番号 |
20K20784
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分8:社会学およびその関連分野
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
澤田 千恵 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 准教授 (20336910)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2020年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 精神障害 / 服薬ノンアドヒアランス / 向精神薬 / 意図的服薬中止 / リカバリー / 断薬 / 薬に関する患者の経験 / 質的研究 / 過剰投薬 / パラダイム / ループ効果 / 精神科医療 / 対話 / 薬物療法偏重 / バイアス / 文化 / エンパワメント / 多剤大量処方 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、精神科治療における「増薬のループ」を「リカバリー・ループ」へと変えていくための方法や社会的条件を明らかにすることである。向精神薬の服用がもたらす生物学的変化の読み解き方やそれに基づく対応方法が精神障害からのリカバリーに大きな 影響を及ぼしているという仮説に基づき、当事者の主体性・自律性と服薬に対する考え方の変化、服薬による心身の変化の読み解き方とリカバリーとの関わりなどを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度は、関連するテーマの内外の文献調査と、国内の向精神薬を断薬した当事者の体験記の調査を行い、それらの内容を検討する研究に着手した。また、精神科治療薬を自らの意思で断薬した人たちのその後の状況を知るために、過去にインタビューした人の再インタビューを実施した。内外の文献調査については、「服薬コンプライアンス」「服薬アドヒアランス」「向精神薬」「向精神薬の中止」等をキーワードにして文献検索を行った。精神疾患の患者に対する服薬コンプライアンス/アドヒアランス研究においては、他の慢性疾患で指摘されている服薬不遵守要因にくわえ、判断力や洞察力の欠如といった精神疾患の症状に起因する(と考えられている)要因が指摘されてきた。また、コンプライアンス研究の前提には、医師の指示通りに服薬することが正しいという前提があることが批判され、アドヒアランスやコンコーダンスなどの概念への移行がなされるとともに、患者の服薬に関する経験や考えを明らかにする質的研究もおこなわれるようになった。そのような流れのなかで、精神科患者の服薬中止に関する新たな知見も生み出されている。これまで精神科の患者が自らの意思で服薬を中止することは、洞察力の欠如が要因であり、症状の悪化や再発・再入院などのネガティブな事柄と強く結びつけられていたが、患者の視点に立とうとする質的研究を通して、意図的な服薬中止を決定するうえでの当事者の判断の合理性などが明らかにされるにいたっている。以上の知見は海外の研究によるものであるため、これまでのインタビュー調査で得たデータや、国内の当事者の体験記などと、それらの知見を照らし合わせて共通性や違いを検証する作業を今後進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで申請者は、「過剰診断」「過剰投薬」(による被害)という観点から,インタビューデータの分析や考察を行ってきたが、そのことがもつ制約に気づいた。「診断」とは医師が行う専門的行為であり,社会学的研究の立場からは、「診断」が「適切」だったか「過剰」だったかを判断することはできない。言い方を変えるなら、診断が「過剰」だと判断する立場は、適切な精神医学的診断が存在することを前提にしており、精神医学の枠組みを採用している。そのことによって、「本当の」精神病者とそうではない人(間違って診断された人,過剰診断による被害者)が存在するという二分法を生み出してしまっていたことに気づいた。そのような本質主義的なアプローチによる研究の制約や行き詰まりを打破するため、再検討を行った。そのことにより、当初の研究計画の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を部分的に修正する。まず、内外の文献研究にできる限り系統的に取り組む。服薬コンプライアンス/アドヒアランス研究の領域のなかで、精神疾患患者の服薬がどのようにとらえられてきたかを文献研究から明らかにする。そこから、研究の課題を抽出するとともに、日本において意図的に精神科の薬の服用を中止した人たちの経験の語りや断薬体験記の記述との比較を行う。 また、海外の薬を使用しない精神科治療の実践について学ぶために、オンライン視察を行う。
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