研究課題
挑戦的研究(萌芽)
琉球列島に分布する琉球石灰岩を変位させて発達する断層は、活断層である可能性が指摘されているが、実際に地震を引き起こしたか不明である。本研究の目的は、石灰岩を用いた高速摩擦実験で得られた知見を活用して、琉球石灰岩中に発達する断層から摩擦発熱の証拠を導き出し、活断層地震性すべりによる災害リスク評価・防災対策のための基礎となる地質学的情報を提示することである。
2022年度は、研究対象地域を拡げ、沖縄本島中南部及び与那国島で地質調査と断層試料分析を実施した。沖縄本島中南部では、断層崖と海岸が交差する地点を中心に地質調査を行った。その結果、2箇所において断層露頭を見出した。断層はいずれも第四系の琉球層群を変位させていることから、活断層である可能性が高い。断層帯構造についてみると、地震性すべりを反映したすべりの局所化(スリップゾーン)は認められず、全体に渡ってカタクレーサイト化していることが明らかとなった。与那国島では、南東部に位置するサンニヌ台で認められる断層を対象に地質調査を行い、断層コア(断層ガウジ)、八重山層群および琉球層群由来のダメージゾーンを記載し、断層運動および発達過程を検討した。また、断層破砕帯の上盤との境界から採取した赤褐色断層ガウジを対象にX線粉末回折を行い、鉱物組み合わせを検討した。その結果、以下の4点が明らかになった。(1)サンニヌ台の断層は断層条線の方向から傾斜滑りの正断層であり、沖縄トラフ内の応力場を反映していると考えられる。(2) 断層コアでは幅2 mほどの断層ガウジを伴い、破砕帯の幅と断層の長さ、総変位量と断層コアの幅の関係は、一般的な断層と同様の傾向であった。(3)断層は、第四系の琉球層群を切っており、総変位量が80 mほどであることを踏まえると、第四紀中に繰り返し活動した活断層であることが示唆される。(4)断層ガウジの赤褐色変質部の含有鉱物は石英、曹長石、カリ長石、イライト、カオリナイト、緑泥石、赤鉄鉱であることから,正断層運動の際に地下から高温の熱水が上昇していたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナの感染拡大の影響があったが、沖縄本島中南部と与那国島を対象に地質調査と断層試料分析を実施することが出来た。沖縄本島中南部では、すべりの局所化を反映したスリップゾーンは見出されず、カタクレーサイト化が断層帯全体に渡って進行していたことから、地震時の摩擦発熱を見出すことは難しいことが判明した。与那国島では、断層帯が熱水変質の影響を受けていると考えられ、これにより地震時の摩擦発熱が仮にあったとしても上書きされている可能性が見出された。また、対象とした与那国島の正断層は、沖縄トラフの拡大を反映している可能性が初めて見出された。昨年度に引き続き断層すべりの多様性を見出すことができ、今後地震時の摩擦発熱を断層から見出していくうえで、貴重な情報を得ることができた。また、沖縄トラフの南北拡大を反映した活断層運動の証拠を初めて得ることができた。したがって研究はおおむね順調に進展していると言える。
新型コロナの影響と海況不良による船の欠航の影響で、当初予定していた波照間島の地質調査が実現できなかったため、2023年度に実施する。また、沖縄本島中南部に分布する断層を対象とした地質調査を継続して行い、2021年度、2022年度で明らかになった断層すべりの多様性を考慮しながら、すべりの局所化を反映したスリップゾーンを見出し、活断層における地震性すべり発生の評価を行う。これまでの宮古島、喜界島、沖縄本島中南部、与那国島、波照間島に分布する活断層調査、断層試料分析・解析結果をまとめ、断層すべりの多様性、断層長さとすべりの局所化を反映したスリップゾーンの有無の関係、琉球石灰岩における摩擦発熱指標の構築、琉球弧・沖縄トラフのテクトニクスと活断層の関連について総括する。
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すべて 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 8件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 14件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 16件、 招待講演 3件)
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