研究課題
挑戦的研究(萌芽)
琉球列島に分布する琉球石灰岩を変位させて発達する断層は、活断層である可能性が指摘されているが、実際に地震を引き起こしたか不明である。本研究の目的は、石灰岩を用いた高速摩擦実験で得られた知見を活用して、琉球石灰岩中に発達する断層から摩擦発熱の証拠を導き出し、活断層地震性すべりによる災害リスク評価・防災対策のための基礎となる地質学的情報を提示することである。
2023年度は、与那国島において地質調査と断層帯におけるクラック解析を実施した。2022年度に見出した与那国島での活断層(正断層)を対象に、断層周辺に観察されるクラックの分布とクラックの透水性の関係について検討した。与那国島の南東側に位置する活断層の露頭では、断層ガウジで構成される断層コアの幅は約2 m、カタクレーサイトやクラックの発達した岩石で構成されるダメージゾーンの幅は約60 mであった。断層下盤側に分布する約80のクラックについて、ダイレーションテンデンシー(Dilation Tendency: DT)値を計算した。地震の発震機構解から推定した現在の地殻応力場に対するクラックのDT値は概ね0.7以上であった。この結果は、クラックが現在の地殻応力場において、流体を流す可能性が高いことを示している。また、断層コアからの水平距離におけるクラック密度とDT値の関係を調べた。その結果、クラック密度が高い断層コアから約65 mまではDT値が比較的小さく変動し(0.4ー0.9)、割れ目密度が低い65 mから100 mまではDT値が高くほぼ一定(約0.9)であった。以上のことから与那国島での活断層では、断層コアのみならず断層帯全体の透水性が高いことが明らかとなった。また、これまでの断層データを用いて、宮古島および与那国島の南琉球弧での第四紀の応力場変遷を検討し、地震の発震機構解から推定される現在の応力場は100万年前よりも若い時期に成立したことが初めて明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルスの感染拡大の影響があったが、与那国島を対象に地質調査と断層帯におけるクラック解析を実施することができた。2022年度に示した沖縄トラフの南北拡大を反映した与那国島の活断層(正断層)において、地下から高温の熱水が上昇する際の断層帯での透水性の空間分布を明らかにすることができた。これまでの断層データを踏まえて、宮古島および与那国島の南琉球弧での現在の応力場の成立時期と第四紀の応力場変遷を見出すことができ、今後地震時の断層運動を見出す上で貴重な情報を得ることができた。したがって研究はおおむね順調に進展していると言える。
まだ実現できていない波照間島での地質調査を実施し、地震性すべりを引き起こす活断層が見出せるか検討する。また、沖縄本島中南部に分布する活断層を対象とした地質調査を継続して行い、これまでの研究で明らかになった断層すべりの多様性を考慮しながら、すべりの局所化を反映したスリップゾーンを見出し、活断層における地震性すべり発生の評価を行う。これまでの宮古島、喜界島、沖縄本島中南部、与那国島、波照間島に分布する活断層調査、断層試料分析・解析結果をまとめ、第四紀の応力場変遷、断層すべりの多様性、断層長さとすべりの局所化を反映したスリップゾーンの有無の関係、琉球石灰岩における摩擦発熱指標の構築、琉球弧・沖縄トラフのテクトニクスと活断層の関連について総括する。
すべて 2023 2022 2021 2020
すべて 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 8件、 査読あり 18件、 オープンアクセス 15件) 学会発表 (38件) (うち国際学会 18件、 招待講演 3件)
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