研究課題/領域番号 |
20K21058
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分25:社会システム工学、安全工学、防災工学およびその関連分野
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大谷 恭弘 神戸大学, 工学研究科, 研究科研究員 (40194196)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2020年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 構造性能 / 資産価値 / 経済的価値 / 耐震性能 / 性能指標 / 地震LCC / 改修費用 / 実績調査 / 耐震改修 / 免震改修 / 経済的評価 / 財産的価値 / 地震ハザード / 調査研究 / 敏感度 / 不動産鑑定 / アンケート調査 |
研究開始時の研究の概要 |
建築建物が保有するであろう建築基準法で規定される以上の「構造性能」を積極的に経済的評価することでそれを建物の資産価値の中に位置づけ、それがもたらす新たな付加価値を社会に導入することで、より安全・安心な建物・地域への改善動機を創発させることを目指すとともに、そのためのシステム構築を目的とした研究です。土地に付随する建物は不動産価値評価において場合によってはマイナス要素であったこれまでの社会通念に対し、人の活動や生活を守る性能を積極的に資産価値に反映し、その経済的効果を持続的な安全・安心社会への原動力にすることのできる社会システムへの方向付けを目指す挑戦的研究です。
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研究実績の概要 |
本研究では、「建物の構造性能の価値」に着目し、それを財産的価値として位置づけ、資産価値として社会システムの中に定着させるための方法を研究します。研究目的を達成するために、3テーマについて同時進行的に研究を進めています。これらは、Ⅰ.建物構造性能の経済的価値評価手法の構築、Ⅱ.建物構造性能の経済的価値を不動産鑑定分野等で活用可能な情報に変換する方法、Ⅲ.建物構造性能の財産的価値を社会に導入するための方法、です。 テーマⅠについては、免震改修工事費用に関する公表されている実績データが少ないことを背景に、2021年度以前は民間企業に対してアンケート調査を行うことを試み、厳しい社会情勢の下で多くは無いですが協力団体や協力企業が得られ、貴重な改修費用データの蓄積につながっていました。しかし、まだデータ数が不十分であることから2022年度はアンケート調査を発注者側となる国や自治体が管理する建物を対象としました。その結果、アンケート回収率の向上につながり免震改修費用の精度向上を図ることが出来たことに加え、管理費用の実績調査も実施することができました。 また、2021年度より着手した地震被害を考慮した建物への生涯経費負担額である地震LCCと構造耐震性と関連する指標との関連付けは、構造耐震性と関連する指標として、建築構造分野で用いられている構造耐震指標Is値、あるいは不動産分野で投資対象建物に対して提示される地震による予想最大損失率PMLに着目し、これら2種類の指標から地震LCCを予想算出する方法について研究を行いました。 テーマⅢに関連することとして、地震LCCを用いた建物構造性能の経済的評価の活用拡大を図るため、事業継続性を考慮した評価方法について研究しました。さらに、建物の地震LCC計算システム公開のため、自動処理が可能なシステム構築を進めることができました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つの研究テーマのうち、テーマⅠについては遅れの原因となっていた経済的評価の基礎データとなる改修工事の実績データ収集の問題に関して、調査対象を民間企業から公的機関とすることで回収率に改善を図ることができ、費用算出モデルの精度向上を図ることにつながりました。 テーマⅠおよびⅡと関連することとして、既存不適格建築物の耐震改修に伴う構造性能向上の経済的評価において、これまで構造性能の区分を非改修・従来型耐震改修・免震改修の3区分での評価を行ってきましたが、構造性能の違いに対してより細かく対応するため、連続して変化する建物の耐震性能指標と地震LCCとの関係について検討しました。具体的には、建築構造分野において地震に対する性能指標として用いられる構造耐震指標Is値の変化と地震LCCとの関係、あるいは不動産分野における投資対象建物に対して提示される大地震時の予想最大損失率PML値と地震LCCとの関係を考察しました。そして、対象建物に対してIs値あるいはPMLが分かっている場合、その建物が位置する地域におけるハザード情報に基づき、地震LCCを算出する方法について例示することが可能となりました。 テーマⅢに関連することとして、建物の構造性能を経済的評価するための手法において用いている地震LCC評価を耐震改修構法選択ツールとして活用する方法を示し、その有効性・可能性について示すことができました。また、これまでは対象用途として集合住宅および事務所ビルとしてきたことに加え、他の用途建築物に対しても本手法の有効性を確認しました。更に、事業系建物については、事業継続性を考慮した地震LCCに基づく評価を提示することが可能となりました。さらに、建物構造性能の経済的評価に用いている本研究で構築した地震LCC計算システムの公開のための準備を進め、ハザード情報等の自動処理が可能なシステム構築を進めています。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、これまでに得られた成果・知見等を整理し、不完全・不十分な部分に対する研究を進め補強した上で、建物の構造性能を経済的評価するシステムのベータ版の完成を目指し、また、それらを発表・公開するための作業を行うとともに、後継研究への指針として今後の課題を整理し、提示したい。
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