研究課題/領域番号 |
20K21164
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分31:原子力工学、地球資源工学、エネルギー学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022) 大阪府立大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
宮丸 広幸 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80243187)
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研究分担者 |
小嶋 崇夫 大阪公立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70360047)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | BNCT / 非同時計数法 / ガンマ線 / 放射線計測 / シンチレーター / コンプトン散乱 / コンプトン |
研究開始時の研究の概要 |
“ほう素中性子捕捉療法”(BNCT)は世界に先駆けて日本で大きく進展している中性子を用いた新しいがん治療法であるが、放射線を外部から患部へ照射する際にその治療効果をリアルタイムで調べることが困難である。BNCTでは治療中患部からは478keVの特定のエネルギーを持つガンマ線が放出されるため、このガンマ線の検出により治療効果を推定する試みが多くの研究者でなされているが測定が極めて困難である。そこで本研究では新たに開発するコンプトン非同時計数法を用いるための特殊な形状を持つ検出器を考案し、特定ガンマ線を高感度に計測する新しい手法を開発し治療の質的向上を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、ほう素中性子捕捉療法(BNCT)において治療効果のその場評価を行うために治療中の患部から発せられる478keVのガンマ線を測定対象として高感度に検出する新しい検出器システムの開発を行っている。主なバックグラウンドである水素中性子捕獲ガンマ線によるコンプトン連続部を非同時計数法を用いて低減し、特に配置を工夫したコインシデンス用の副検出器にて478keVのガンマ線ピーク位置における連続部に特化して抑制することが本研究の独自性である。シミュレーションの結果、主検出器の後方に長い板状のタリウム活性ヨウ化セシウム(CsI(Tl))シンチレータからなるコインシデンス用の検出器を上下左右に4面並べる配置が有効であることが明かになった。しかし入手できる結晶が1cm角の5cm長であったため、縦に2本繋げ10cm長さの1本の棒状結晶に対して一つの光電子増倍管を結合させ、エネルギー分解能を確保する製作方法に改めた。この棒状の検出器を3台製作し、信号を取りまとめて板状検出器と扱い、エネルギー分解能を実験的に求めた結果511keVガンマ線に対して11%であった。 入手が遅れていた1.5インチ臭化セリウム検出器を用いて検出器内でコンプトン散乱事象を行い、侠角度の散乱角で放出される2次ガンマ線のみを製作した副検出器で検出するように配置を行った。これら2台の検出器信号の時間差計測を行い非同時計数システムを構築した。開発段階ではNa-22標準線源からの1.28MeVのガンマ線を対象として実験を行った。主検出器の先端から後方40度の位置に棒状の副検出器の先端が来るように配置し、1.28MeVのガンマ線が主検出器内でコンプトン散乱し40度よりも小角で散乱する事象だけに非同時計数処理を行った結果、開発した本システムでは478keVピーク位置において1.7 %のBGガンマ線を除去することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍での製品製作工程の遅れから主検出器である臭化セリウムシンチレーション検出器の入手が研究期間最終年度の今年度初頭まで遅れたことや、加えて既存の光電子増倍管ベースがデジタル出力のみの仕様のため、非同時計数法を適用するためのパルス波高を出力できないことが判明し、新たに改良された光電子増倍管のベースを追加購入が必要となり全体の検出器システムの構築が遅れた。形状が特殊な副検出器を主検出器全体を網羅するように多数配置することは限られた予算の関係から困難なため、今年度は1面のみで非同時計数法の適用を行い原理実証を目的の実験を詳細に行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではエネルギー分析を行うガンマ線用主検出器の内部で小角度にコンプトン散乱するガンマ線のみを後方に配置された副検出器にて非同時計数法適用の対象とするため、主検出器に入射するガンマ線の入射角の広がりは可能な限り低減する必要がある。このためガンマ線の入射角を極めて小さく限定できるようなコリメーターが必要とされる。これまで鉄を用いた遮へい体系での実験を行っていたが、2MeVを越えるエネルギーのガンマ線では遮へい性能が十分でないことが実験的に明らかになった。今後はシステムを更新して鉛コリメーターを30cmの長さ程度有する遮へい体系を新たに検出器前方に設置する。また、副検出器の有効体積(台数)を大きくすると自然放射線の影響により非同時計数法の動作時にチャンスコインシデンスの事象が増加する。これを有効に低減するために鉛遮へい体系を副検出器周辺にも新たに配置する。昨年度までに原理実証を終えているが、副検出器の検出効率が低いためにバックグラウンドを有効に低減できるほどの感度が得られていない。解決策としてシンチレータ本数を増やすことが最も有効ではあるが、光電子増倍管の本数やプリアンプ等後段モジュールの必要数も増加する。研究期間延長を行った今年度は最終年度として副検出器の感度向上を図り、本手法の有効性をより明確にする。またこれまでの成果を研究論文や学術会議でまとめて報告する予定である。
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