研究課題/領域番号 |
20K21421
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
立花 和則 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (60212031)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2020年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 末梢睡眠 / クラゲ / 生物時計 / Sik3 / 行動解析 / ゲノム / 散在神経系 / 抹消睡眠 / SIK3 / エダアシクラゲ / 刺胞動物 / 睡眠 / 行動 |
研究開始時の研究の概要 |
睡眠は健康な生活に必須で、特に脳の休息に重要であるとされるが、その制御の分子的機序は不明の点が多い。最近、脳をもたない、末梢神経のみの刺胞動物においても、睡眠があると示唆されている。脳の無いクラゲにも睡眠が存在することは、睡眠は、脳のみでなく、末梢においても何らかの役割を果たしていることを示している。本研究はこの「末梢睡眠」の機能を明らかにすることを目的とする。最近、応募者らのゲノム解析により、クラゲのゲノム中に、マウスで「眠気」を制御する鍵となる重要な遺伝子SIK3のオーソログが見つかった。本研究では、クラゲにおけるSIK3分子の機能を解明し、末梢睡眠の意義や分子機構を明らかにしたい。
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研究実績の概要 |
睡眠は脳の休息に重要であると考えられるが、睡眠がどのように脳の機能回復に働くのかということの分子的実体は不明の点が多い。クラゲは神経系をもつ最も進化的に古い真正後生動物で、散在神経系を持つが、中枢神経(脳)を持たない。脳の無いクラゲにも睡眠が存在することは、睡眠は、脳のみでなく、末梢においても何らかの役割を果たしていることを示している。私たちはクラゲの睡眠を「末梢睡眠」と名付け、本研究はこの末梢睡眠を明らかにすることを目的とする。クラゲの末梢睡眠は哺乳類などの睡眠とどう関係しているのだろうか?表面的な類似した現象にすぎないのか、それとも多くの動物の睡眠に共通の分子基盤が存在するのか? 睡眠の制御はショウジョウバエからヒトに至る動物において、(1)睡眠要求と(2)概日時計の2つの主要な制御因子によって行われるという2プロセスモデルが広く受け入れられている。(1)睡眠要求については、マウスで「眠気」を制御する鍵となる重要な遺伝子SIK3のオーソログがクラゲでも見つかった。一方で、(2)概日時計については、ゲノム解析からエダアシクラゲには概日時計の重要な遺伝子である転写因子のBmal1とClockは存在するが、これらの複合体を負に制御し生物時計の周期性をもたらす(コアループを形成する)periodとCryは見つかっていない。本研究ではクラゲの「末梢睡眠」において、睡眠要求と概日時計が睡眠の制御にどのように関わっているのかを調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
睡眠制御の(1)睡眠要求については、Sik3タンパク質が重要で、マウスでは睡眠要求量と脳のSik3タンパク質のリン酸化状態が対応している。エダアシクラゲにおいて、SIK3のオーソログが見つかった。そこで、エダアシクラゲのSIK3タンパク質に対する抗体を作成した。また、抗リン酸化Sik3抗体は、期待通り活性化型(リン酸化型)を強く認識した。しかし、クラゲ全体のイムノブロットでは内在性のSIK3タンパク質を検出することができなかった。その理由は全体では、SIK3タンパク質の濃度は低いためである可能性が高い。そこで、神経細胞に局在しているSIK3を検出できるように免疫組織化学的検出を試みた。その結果、神経細胞にSIK3らしきシグナルがあったが、これがリン酸化抗体でも検出されるか、睡眠と覚醒のサイクルに応じた変化をするかなどは不明のままである。(2)概日時計については、ゲノム情報から概日時計の機構がハエや哺乳動物とクラゲとではかなり異なっていることが予想された。しかし、明:暗=12:12のエダアシクラゲの睡眠様行動のサイクルは概日リズムを示している。そこで、概日時計の最も主要な同調因子である光条件を変えて、クラゲの睡眠様行動をしらべた。その結果、恒明条件または恒暗条件ではクラゲの睡眠様行動はリズムを示さなかった。クラゲにもBmal1とClockは存在することから、クラゲの概日時計はperiodとCryを介さずに、光にのみ依存した制御を受けている可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
クラゲの末梢睡眠は行動的・分子的にどれほどハエや哺乳類の睡眠に共通しているかを調べる。概日時計の機構そのものがクラゲとハエや哺乳動物では大きく異なる可能性が示唆された。そこで、今年度は概日時計に注目してクラゲの睡眠様行動をしらべることにした。これまでに恒明条件または恒暗条件という極端な光条件でクラゲの睡眠様行動をしらべて、クラゲの睡眠様行動が明:暗=12:12のときと大きく異なり、ほとんどリズムを示さなくなることがわかったが、それでは、明暗の割合が、どれくらいになれば、リズムが回復するのか、リズムのある場合とない場合で、時計遺伝子(Bmal1とClock)の発現はどう変わるのか、などを調べることにより、睡眠と概日時計の関係、その進化的な起源を明らかにすることを目指す。
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