研究課題/領域番号 |
20K21432
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 准教授 (80724111)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | シロイヌナズナ / 花粉管 / 精細胞 / 内部形質膜 / 栄養核 |
研究開始時の研究の概要 |
被子植物の精細胞は先端成長する花粉管の内部を通って卵細胞のある胚珠とよばれるメス組織へと運ばれて受精をする。精細胞を包みこんでいる内部形質膜という膜系は、卵細胞の珠口に放出されたのちに素早く崩壊することで精細胞膜を露出させ、受精の準備を整えさせると考えられているが、植物の受精は雌しべの組織の奥深くで起きる現象であることから、内部形質膜の崩壊の仕組みは理解が進んでいなかった。本研究ではシロイヌナズナを使って、内部形質膜の崩壊を促す可能性があるメス側からのシグナルを検討するとともに、内部形質膜に局在するタンパク質の機能を解析する。これにより、内部形質膜の崩壊メカニズムと崩壊の意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
被子植物の精細胞は花粉管と呼ばれる細い管状構造の内部を通り、胚珠の中にある卵細胞まで届けられることで受精を行う。花粉管伸長の間、精細胞は2つ1組が内部形質膜とよばれる栄養細胞の単膜花粉管栄養核とつながった雄性生殖単位として共に行動する。シロイヌナズナの重複受精のライブイメージングから、内部形質膜は胚珠内に精細胞が放出された瞬間に崩壊して精細胞膜を露出させることがわかった。また、花粉管発芽直後に精細胞が放出されるanx1 anx2二重変異の観察からも、素早い内部形質膜崩壊が観察され、この成果をFrontiers in Plant Science誌に報告した。さらに、我々は内部形質膜と精細胞の間に蓄積する多糖分解酵素を蛍光タンパク質でラベルしたものを、内部形質膜崩壊による漏出に伴ったシグナル低下を指標に内部形質膜の完全性を感度良くモニタできるレポーターとして機能することを見出しており、これを利用して内部形質膜崩壊を誘導するシグナルを調べた。その結果、カルシウム欠乏培地に精細胞が放出されたときに、内部形質膜が無傷のまま単離できる率が上昇することが見出された。無傷の精細胞を顕微操作によってカルシウム添加培地へと移すと、培地に放出された瞬間に内部形質膜崩壊が誘導されることがわかった。したがって、少なくとも花粉管の外へと放出された精細胞は細胞外環境における高濃度のカルシウムイオンへの曝露によって、内部形質膜崩壊を引き起こすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
anx1 anx2二重変異の観察によって、花粉管細胞壁維持の破綻による精細胞の放出制御機構と内部形質膜の崩壊制御がそれぞれ独立の制御であることが示唆されている。花粉管から精細胞が放出された瞬間に内部形質膜が崩壊する様子をシロイヌナズナのライブイメージングで捉えた結果と合わせ、研究の最初期の成果を論文として報告できた。 内部形質膜局在タンパク質で回収した画分のプロテオームに基づいた因子探索では、候補遺伝子のなかで内部形質膜崩壊の制御を持つことを指示する結果は得られなかった。その一方で、精細胞が細胞外に出ることが内部形質膜の崩壊において重要な要素であることが判明しており、今後の内部形質膜崩壊の背景にある分子機構の解析に対して有力な手がかりが得られた。 内部形質膜-精細胞膜間の内容物漏出に伴ったシグナル低下を指標に内部形質膜崩壊をモニタするレポーター系が構築されたことで、放出された精細胞が示す内部形質膜崩壊の頻度を定量的に評価できるようになった。これを利用して細胞外カルシウムイオンが内部形質膜崩壊を誘導する重要なシグナルであることが示唆された。精細胞が放出される胚珠環境では細胞外のカルシウムイオン濃度が高いといわれている。受精直前の適切なタイミングで特異的な内部形質膜崩壊を誘導する生理的な意義からも、細胞外カルシウムイオンに依存した内部形質膜崩壊誘導仮説は注目に値する。単離精細胞を用いて内部形質膜崩壊が試験管内で誘導できるようになったことも、今後の因子探索において強力な基盤技術を確立できた点として評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
内部形質膜崩壊の動態と崩壊制御の生理的シグナルの解析、及び、各種の解析手法の開発など、内部形質膜崩壊制御の萌芽的研究として本研究の目指した成果は概ね達成することができた。今後は内部形質膜崩壊を制御する遺伝子の同定や、試験管内における内部形質膜崩壊の再構成実験などを通じて、より分子生物学的要素の強いテーマへと移行させることができる。特に遺伝子の同定については、カルシウムイオンが内部形質膜崩壊を制御する重要な要素であることが判明したため、カルシウム欠乏培地内で単離した精細胞から大量に調製した内部形質膜で、より高品質な局在タンパク質のプロテオーム研究を遂行することが可能になった。また、内部形質膜崩壊を誘導する実行因子の絞り込みには、得られた候補因子からはカルシウムに対する結合性や、内部形質膜に豊富に存在する陰イオン性のリン脂質に結合する性質などを利用することができる。現在、そのようなプロテオーム実験を遂行する予備実験として、花粉の大量調製法、細胞単離に必要な培地の組成、細胞破砕法、花粉管の伸長法について検討しているところである。また、生体において、放出された精細胞における内部形質膜崩壊を促進する雌側の環境についても、既知の雌性配偶体の機能異常変異体を使った解析を行うことで研究を進める必要がある。以上のような発展的なテーマについては、本研究に携わってきた杉直也博士が代表となっている、科研費若手研究「精細胞を包む特殊膜構造の無傷単離系を基盤とした膜局在因子の解析」に継承される。
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