研究開始時の研究の概要 |
CI 療法などを含む脳卒中後の上肢リハビリテーション領域の効果検討研究において, 動作分析が治療アウトカムとして採用されることはこれまではまず無かった. これは, 複雑な上肢(特に手指)の動きに対して, 動作分析における活用歴の長い「マーカー設置型」動作解析による適切な測定が困難であったことにも起因する. 現在は, 上肢機能における利用性の高い 人体装着型多軸センサーと機械学習を利用した人体部位推定技術の研究環境が整いつつある. 本研究においては, 肩関節から手関節までの動きを加速度・角速度・等を含有した人体装着型多軸センサー , そして手指の動きに対して人体部位推定技術を用いて分析する.
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研究実績の概要 |
脳卒中後に上肢運動麻痺を呈した成人患者における動作レベルを, 9軸加速度計を用いた運動学的変数で表現する臨床研究が継続された. 上肢運動能力の評価ツールとしてゴー ルとスタンダードとして認識されている Action Research Arm Test(ARAT)に対して, 我々はポータブル人体装着型多軸センサーを使用することで, 「他人と共有されない場合のある主観的」運動学的変化を「多くの医療者間で共有されやすい客観的な運 動学的変数」に置き代える試みを継続している.
昨年度に関しても, 新型コロナウイルス感染症拡大によりデータ取得施設でのデータ収集は遅延したが, 現在25名のデータ取得を完了することできた. 現在, 検討を進めている主な運動学的変数は, 加速度, 角度速度, 関節可動域で, 対象に設置した8個の9軸加速度センサー個別の情報と, それらを組み合わせて算出した, 頚部の屈曲・伸展, 頚部の側屈, 頚部の回旋, 腰椎の屈曲・伸展, 腰椎の側屈, 腰椎の回旋, 胸椎の屈曲・伸展, 胸椎の側屈, 胸椎の回旋, 肘関節の屈曲・伸展, 肩関節の屈曲・伸展, 肩関節の外転・内転, 肩関節の外旋・内旋, 手関節の屈曲・伸展, 手関節の橈屈・伸展, 前腕関節の回内・回外の動きについて検討を進めている. 現在のところは, ARATの掴み系課題(Grasp)に関しては, 肩屈曲、肘伸展, 骨盤の前傾・側屈、肘関節の屈曲, 肩関節の内旋などが, ARAT得点の増減と関与する可能性を確認している. また, ARATの握り系課題(Grip)に関しては骨盤の前傾, そして前腕関節の回内・回外, 手関節の屈曲・伸展の動きがARAT得点の増減と関与する可能性を確認している. 今後は症例を増やして, 統計学的検討を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症拡大に起因する研究計画の変更に伴い, まずは Action Research Arm Testが運用される際の脳卒中に起因する上肢麻痺を有する対象 者の運動学的変数が着目されることになった. これは, 新型コロナウイルス感染症拡大により, 当初想定していた関西地方におけるデータ取得施設における外来リハビリテーションの中断や, CI療法を運用にするに当たって, 外来患者が数時間以上にわたって病院内に滞在するリスクなどが加味された結果である. そこで, 元々の本研究の核である「他人と共有されない場合のある主観的」運動学的変化を「多くの医療者間で共有されやすい客観的な運動学的変数」に置き代え る, このコンセプトを保ち, CI療法効果検討に直接繋がる研究デザインへ変更されることとなった. その後新規フィールドを確保し、データ取得が開始されたも のの、新任校での重ねての倫理審査のため、データ取得が数ヶ月間滞り、加えて新型コロナウイルスの影響は未だ強く、対象者数の確保に苦慮している状態である。
その後のデータ取得も, 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う, データ取得施設内の, クラスター感染やその対応としてのゾーニングなどからも影響を受けている. ただし, 状況に応じて, 適切な処理を講じながらデータ取得は継続していただいており, 現在25名のデータ取得に成功している.
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今後の研究の推進方策 |
現在は, 上記したように, 人体装着型多軸センサーを用いて, 医療者主観的 運動評価ツール(Action Research Arm Test)に対する客観化の試みが, 脳卒中に起因する上肢麻痺を有する対象者にて継続されている. 現在は25名の対象者の データ取得に成功したが、適切な統計解析を目指して更なる対象者数の確保が必要な状況である。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により当初よりも解析者数の減少を想定しているため、使用する運動変数の数を減らすことで、適切な統計学的解析に至るように調整する予定である。
また、新型コロナウイルス感染症拡大が沈静化して, 以前のよ うな外来リハビリテーションの計画が可能になった際には, 当初の予定通りCI療法における効果検討の指標として導入される場合がある.
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