研究課題/領域番号 |
20K23382
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(帰国発展研究)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
医歯薬学
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉野 純 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 非常勤講師 (80383777)
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研究期間 (年度) |
2021-03-12 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
55,900千円 (直接経費: 43,000千円、間接経費: 12,900千円)
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キーワード | 肥満 / 脂肪 / NAD / 老化 / エネルギー代謝 / インスリン抵抗性 / NMN / 脂肪細胞 / ミトコンドリア / 臨床研究 / トランスレーショナル型研究 |
研究開始時の研究の概要 |
インスリン抵抗性は、糖尿病、心血管病変、癌、などの危険因子として知られている。本研究は、脂肪細胞のNAD合成系を標的として、インスリン抵抗性の病態形成機序を解明し、新規治療法・予防論を開発することを目的とする。そのため、脂肪細胞特異的遺伝子改変動物モデル、ハイスループットスクリーニング、NADメタボロミクスを駆使し、細胞・分子レベルから個体・代謝表現系レベルまで包括的な解析を行うトランスレーショナル型研究を行う。さらに、申請者の長年の共同研究者であるSamuel Klein教授(ワシントン大学)と国際共同臨床研究を展開し、本邦に先駆的な臨床代謝研究のインフラを樹立することも目的の一つとする。
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研究実績の概要 |
肥満およびインスリン抵抗性における脂肪細胞NAD生物学の役割を検証するため、新規ミトコンドリアNAD輸送体(SLC25A51)に着目し研究を行なった。絶食や高脂肪食負荷に応答して、マウス脂肪組織でSLC25A51発現が増加した。これに合致して、肥満患者の皮下脂肪組織においてもSLC25A51発現が増加した。糖・エネルギー代謝制御および肥満の病態生理における脂肪細胞SLC25A51発現の意義を解明するため脂肪細胞特異的SLC25A51欠損(ASKO)および過剰発現(ASLO)マウスを作製し、代謝表現型解析を行なった。ASKOマウスでは脂肪組織中のミトコンドリアNAD濃度が顕著に低下し、ATPの減少を認め、ミトコンドリア機能異常が示唆された。通常食投与下で脂肪重量の増加、耐糖能障害、インスリン感受性の低下を認め、高脂肪食投与下では脂肪重量の低下、線維化の亢進を伴い、生存率の低下を認めた。一方でASLOマウスでは高脂肪食負荷に伴う耐糖能障害を抑制した。これらの結果から、脂肪細胞SLC25A51およびミトコンドリアNADは全身の糖・エネルギー代謝制御において重要な役割を果たすことが示唆された(現在投稿準備中)。また同時に、脂肪細胞特異的NMNAT1欠損マウスを作製し、代謝表現型解析を行い、糖・エネルギー代謝における脂肪細胞核内NAD代謝の役割は限定的であることを報告した(Biochem Biophys Res Commun. 2023)。さらに、NAD中間代謝産物NMNの安全性、効用を検討する臨床試験を行い(Endocr J., 2023)、ワシントン大学医学部との共同研究により、肥満者における褐色脂肪組織の役割、代謝異常症の病態メカニズムを解析した(Cell Metab. 2024; Cell Rep Med. 2024; Nat Metab. 2024)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の報告書にもあるように、本研究は、ミトコンドリアNAD量が全身の糖代謝およびインスリン感受性制御に関与することを示唆する重要な知見を得たため、新規ミトコンドリアNAD輸送体SLC25A51に焦点を移して研究を進めている。新規遺伝子改変動物(脂肪細胞特異的SLC25A51過剰発現マウス、脂肪細胞特異的SLC25A51欠損マウス)を世界に先駆け作成し現在その代謝表現型の解析を行い、論文投稿準備段階にある。所属研究機関の動物飼育施設(リサーチパーク地下)の改修工事、新規モデル動物の作成、研究者の異動などの理由により、当初の予定より若干の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、脂肪細胞ミトコンドリアNAD生物学が糖代謝および肥満・インスリン抵抗性の病態形成で果たす役割について更なる検証を行う。第一に、新規脂肪細胞特異的SLC25A51過剰発現マウス・欠損マウスの代謝表現型解析を完了させる(学会発表済み、現在投稿準備中)。同時に、培養細胞系を用いてSLC25A51の分子レベルでの機能解析を行う予定である。また肥満関連疾患(糖尿病、脂肪組織線維化、網膜疾患、急性・慢性腎臓病など)におけるNAD中間代謝産物NMNの予防薬・治療薬としての可能性の検証も進める予定である。同時に、米国ワシントン大学医学部内科Klein研究室との国際共同研究をさらに発展させ、精緻型代謝臨床研究の基盤を作ることを推進するとともに、臨床研究に使用できる超音波検査による低侵襲な脂肪組織機能評価システムの臨床応用を目指すとともに、生活習慣病(肥満、慢性腎臓病など)における異所性脂肪沈着(例えば、肝臓内脂肪、腎洞脂肪など)の臨床的意義の検討も継続する。
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