研究課題/領域番号 |
20KK0065
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
服部 誠 東北大学, 理学研究科, 准教授 (90281964)
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研究分担者 |
本多 俊介 筑波大学, 数理物質系, 助教 (30835020)
鈴木 惇也 京都大学, 理学研究科, 助教 (90795014)
梨本 真志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員 (90888132)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2023年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 宇宙マイクロ波背景放射 / 超伝導検出器 / 星間塵 / 観測的宇宙論 / 宇宙マイクロ波背景放射観測 / 宇宙論 / データ解析 / アモルファス / 超電導検出器 |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙はどうやってはじまったのか?宇宙に果てはあるのか?私たちはどこから来たのか?これら根源的課題の解決を最終ゴールに据えた国際共同研究を行います。鍵は宇宙マイクロ波背景放射”CMB”の精密観測と星間塵の研究です。CMB精密観測を目的とした超電導検出器開発のため、オランダ・デルフト工科大学に若手研究者を派遣します。製作した検出器を、スペイン・テネリフェ島に設置した私たちのCMB望遠鏡GroundBIRDに搭載しCMB精密観測を実施します。フランス・トゥールーズ大学に若手研究者を派遣して、星間塵に対する私達オリジナルな知見を持ち込んで欧州のCMB観測衛星Planckデータの再解析を行います。
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研究実績の概要 |
カナリア諸島テネリフェのカナリア天体物理研究センター(IAC)が運営するテイデ観測所に設置したミリ波望遠鏡GroundBIRD(GB)に搭載する最新の超伝導検出器の設計を東北大学の大学院生と分担者の本多が実施し、オランダ宇宙研究所(SRON)で作成した。本研究費を用いて東北大学の大学院生がオランダに長期滞在し、作成が完了した検出器の実験室での性能評価実験をSRONとデルフト工科大学で実施し、設計通りの性能を持つことを実証した。分担者鈴木・本多、京都大学と東北大学の大学院生がIACの共同研究者の協力のもとGBへの本観測用検出器搭載を2023年5月に完了した。その後、観測周辺の山火事で半年間、観測ができない期間を経て、2023年12月より本観測を開始した。これまでに月、木星、金星の撮像測定に成功し、それらのデータ用いて感度やノイズ特性の導出に成功した。各検出器が設計通りの偏光特性を持つことも東北大学の大学院生の現地での測定によって確認できた。京都大学の大学院が、GBで取得したデータの解析のための基本ツールを開発し、それを実際のデータ適応してGBの性能の定量評価を初めて提示した。この成果は、京都大学の博士論文としてまとめられ、一部は査読論文として発表された。 星間塵の大半を占めるナノサイズの微粒子の物理モデルに久保亮五により金属微粒子の熱物性の記述のために考案されたエネルギー準位統計の考え方と初めて導入したモデルを分担者の梨本と協力して東北大学の大学院生が完成させた。初期の成果は査読論文として投稿済みで現在レフェリーコメントへの対応中である。 星間塵による宇宙マイクロ波背景放射(CMB)モノポール成分が吸収されることで生じる偏光シグナルが将来の高精度CMB偏光観測による初期宇宙探査に無視し得ない影響を与えることを梨本の協力で東北大学の大学院生が示し、査読論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ設計通りの性能を持つGroundBIRD(GB)の本観測用検出器を完成させ、GBに搭載し研究期間中に本観測を開始できたことが最大の成果であり、山火事やコロナの影響で当初計画より1年ほど遅れて入るが、十分順調に進展していると判断できる。実施期間中に2名がGB関連の成果で博士号を取得し、内一名は量子計算機関連の研究室の助手としてキャリアアップしている。後に続く大学院生も日本とGBの共同研究相手の一つである韓国で順調に育っている。本研究計画開始当初ポスドクだった分担者の本多は、現在筑波大学理学部助教としてキャリアアップしている。分担者の鈴木も本研究計画を足がかりの一つとして、分野を先導する研究者として着実に進化している。 分担者の梨本の協力で2名の東北大学大学院生が星間塵の物理の理解の深化につながる独立な研究成果それぞれ挙げていおり、期間中に査読論文の発表あるいは査読論文への投稿を済ませている。特に星間塵の研究にメソスコピック系の物理を取り入れた研究は斬新で、今後大きな発展が見込まれる。彼らは、代表者の服部が協力者のGenova-Santosなどと協力して主催しテネリフェで開催した国際会議など複数の国際会議で成果発表を行い、その機会にそれぞれが海外研究者との独自の人的コネクションを獲得し、今後の国際的研究活動進展の端緒を拓くことができた。ただ、進展した研究の内容から当初予定していたツールーズ大学での研究遂行が必ずしもベストな選択とは判断できなくなり、ツールーズ大学との共同研究の遂行は未だ実施されていない。これが進展度合いを概ねと判断する理由である。 以上のように本研究は、GBの本観測開始を柱に当初予定していた研究計画が順調に進展しているだけなく、国内外の多数の若手研究者の育成にも大きく貢献した。
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今後の研究の推進方策 |
GroundBIRD(GB)による広天域ミリ波偏光観測を延べ3年分の探査観測データが蓄積するまで継続する。2024年度中に延べ1年分のデータを蓄積する。GBの目的である初期宇宙研究実現のために十分な偏光測定精度を達成するためには、各検出器が測定する偏光方向の偏光角を定期的に校正する必要があるが、現状その実施に必要な装置が揃っていない。現在、東北大学の大学院生が中心となり装置の開発を実施中であり、2024年秋頃に現地に搭載する計画である。GBの特徴は、高速回転スキャン観測と高速サンプリングを組み合わせて、広い天域をこれまでの観測装置と比べて圧倒的に短い時間で観測することである。これにより秒単位で変動する大気揺らぎを克服して、GB がターゲットとする大きな角度スケールに現れるシグナルの地上からの測定を世界で初めて実現する。しかしながら、これまでの我々の研究で達成できた大気揺らぎ成分の除去精度は、目指す科学目標達成にとってまだ十分とは言えない。基礎となるデータを更に蓄積し、いくつかのアイデアを元に開発する手法を実際のデータに適応して、改善を試みる。本年度中に、観測所の同じ敷地内に設置されたIACが運営するQUIJOTE望遠鏡で得られたデータとGBのデータの統合解析に着手する。 メソスコピック系の物理の実験場としての星間塵研究分野開拓を実際の観測データとの比較を実施することでつぎの段階に押し進める。 東北大学の大学院生が国際会議で知り合った星間塵研究の第一人者との共同研究の実施により、これまで手が出せなかった手法を自身のモデル計算に取り込む。 東北大学大学院生の一人が、現在大きな論争を呼んでいる宇宙マイクロ波背景放射の観測により測定された宇宙論パラメータと天文観測によって測定された値との間の系統的な食い違いに独自のアイデアに基づいたアプローチで挑む。
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