研究課題/領域番号 |
20KK0069
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
川崎 真介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (20712235)
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研究分担者 |
今城 想平 大阪大学, 核物理研究センター, 特任研究員 (10796486)
三島 賢二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (20392136)
市川 豪 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (60749985)
樋口 嵩 大阪大学, 核物理研究センター, 招へい准教授 (90843772)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2021年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2020年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
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キーワード | 超冷中性子 / 中性子基礎物理 / 時間反転対称性 / スピン制御 / 超流動ヘリウム / 対称性 / 電気双極子モーメント |
研究開始時の研究の概要 |
中性子電気双極子モーメント(EDM)を探索することにより、時間反転対称性の破れを検証する。CPT保存を仮定すれば時間反転対称性の破れはCP対称性の破れを意味する。中性子EDMの探索を通して、現在の物質優勢宇宙の起源を探る。 中性子EDMの測定は静電磁場中に閉じ込められた超冷中性子の歳差運動の様子を精密に観測することで行われる。我々はカナダのグループと共同でTRIUMFに世界最高強度の超冷中性子源を建設することにより、現状を1 桁以上上回る精度での探索を行い、中性子電気双極子モーメントの発見を目指す。
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研究実績の概要 |
中性子電気双極子モーメント(EDM)探索は電磁場中に置かれた中性子のスピン歳差運動周期を精密に測定することで行われる。この測定には運動エネルギーが300 neV未満の超冷中性子が用いられる。探索感度向上のためには超冷中性子を大量に発生させること、磁場を均一にコントロールすることが必要である。 超冷中性子の生成は超流動ヘリウムを用いたスーパーサーマル法で行われるが、効率的な生成には超流動ヘリウム温度を1.0 K程度に保つ必要がある。冷却のためのヘリウム3冷凍機は日本で開発され、超冷中性子源の建設されているTRIUMFに移送された。液体ヘリウム供給ラインや排気ポンプの準備などの準備も行われていた。2023年度はこのヘリウム3冷凍機を超冷中性子ビームラインにインストールし、冷却試験を行った。冷却試験では高価なヘリウム3は用いずに通常のヘリウム4を用い、超流動ヘリウム冷却のための最終熱交換器は実機の1/10の長さの試作機を用いた。試験ではヘリウム液化機からのヘリウム供給ライン、ヘリウム回収ライン、減圧ポンプなどが正常に動作しすることを確認した。ヘリウム3冷凍機も設計通りの性能が出ていることが確かめられた。最終熱交換器実機はすでに完成し、TRIUMFに輸送されている。 中性子EDM測定に必要な磁気シールドルームは完成し、性能評価が行われている。性能評価により磁気遮蔽率が設計値よりも小さいことが判明し、磁気シールドが補強されることが決定した。J-PARC物質・生命科学研究所に設置されているパルス超冷中性子源を用いEDM測定に用いる要素開発を行った。超冷中性子を貯蔵するためのEDM容器、スピン偏極解析器などの性能評価を行った。 2023年8月にKEK(日本)、2024年2月にウィニペグ大学(カナダ)でコラボレーションミーティングを行った。ミーティングではそれまでの開発状況を共有し、今後の開発についての議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超冷中性子源の根幹であるヘリウム3冷凍機のインストールが終わり、コミッショニングが開始された。最終熱交換器の実機も完成している。TRIUMFではヘリウム3循環システムも構築され、ヘリウム3を用いたコミッショニングの準備も整っている。しかしTRIUMFのヘリウム液化機が2024年1月から4月メンテナンスによる停止期間があり、液化機が稼働する5月より、コミッショニングを再開する。TRIUMFが準備している超冷中性子生成容器の製作が遅れていたが、2024年3月に完成のめどが立ち、2024年4月にインストールされる予定である。ヘリウム3は高価なため、閉回路の循環系の中で用いられる。安定的にヘリウム3冷凍機を運転するには、系からのアウトガスやリークなどで生じる不純物を取り除く必要がある。このためのヘリウム精製機を開発している。このヘリウム精製機はヘリウム3精製だけでなく、超冷中性子コンバーターである超流動ヘリウムに用いられる高純度ヘリウム4の精製にも用いられる。この精製機の設計を終え、最重要要素である活性炭後ラップを作成した。2024年度にこれを冷却するための冷凍機を作成し組み込む。 超冷中性子源の要素である液体重水素モデレータはTRIUMFが担当していたが、開発が遅れているため、一部日本で開発を行うことになった。液体重水素を低温に維持するための液体重水素冷凍機、重水素から不純物を取り除くための重水素精製器の開発を行う。 磁気シールドルームは完成したが、性能試験の結果、磁気遮蔽率が設計よりも小さいことが分かった。協議のすえ、製作会社が再内層に磁気シールドを追加することで設計通りの磁気遮蔽率へ向上することになった。
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今後の研究の推進方策 |
ヘリウム3冷凍機の単体コミッショニングに引き続き、超冷中性子コンバーターである超流動ヘリウムの冷却を行う。ヒーターを用いて超冷中性子発生時の熱負荷を模擬することにより、実際の超冷中性子源精製能力を見積もる。安定的に超冷中性子源を運転するためのヘリウム3および高純度ヘリウム4の精製機を開発する。5月までに詳細設計を終え、8月までに完成させ、TRIUMFに輸送する。これらの要素を統合し9月に超冷中性子生成を予定している。この際には開発の遅れている液体重水素モデレータは使用しない。液体重水素モデレータを使用しない場合、超冷中性子生成数は使用した際の1/25になることが見積もられている。 開発の遅れている液体重水素モデレータに使用する液体重水素冷凍機および重水素精製機を日本で開発する。すでに概念設計は終えており、2024年中に完成しTRIUMFに輸送される予定である。2025年1月から4月のTRIUMFシャットダウン期間にこれらはインストールされ、シャットダウン期間中にコミッショニング作業を行う。液体重水素モデレータのインストールにより、全ての超冷中性子源の要素が完成することになる。2025年5月からのTRIUMF運転期間では超冷中性子源の全性能評価を行う。 磁気シールドルームについては磁気遮蔽率向上のための再内層の構築が終わったのちに再度、性能評価を行う。その後ウィニペグ大学によって設計された静磁場コイルが設置され、フラックスゲート磁力計やセシウム磁力計を用いて磁場一様性の評価を行い、必要な場合にはシムコイルを追加する。 EDM測定装置の開発はこれまで同様J-PARC物質・生命科学研究所のパルス超冷中性子源の他、稼働を始めるTRIUMFのUCN源を用いたR&Dを進める。当初の予定では電極に対し上下二つのセルを用いる予定であったが、まずは1つのセルでの中性子電気双極子モーメント探索を行う。
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