研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
太陽系システムを構成する元素の中でも,炭素(C)は4番目に存在度が高く,生物を構成する最も重要な元素の一つである.特に,地球表層での炭素循環は,地球史上の生命現象や環境変動に強く関与しており,「生存可能な惑星」の礎である.しかしながら,地球表層の有機物の起源に関しては多くの論争が存在している.そこで本研究では,オーストラリアカーティン大学と共同で初期地球の岩石記録に保存されたナノカーボン(グリーンランド・オーストラリア・インドに産する古い堆積岩)の詳細解析を実施し,生命の誕生に関するプロセスを検討する.
本研究の目的「地球上最古の有機物化石の原子構造と炭素同位体解析を行い、生命の起源を解明する」を実施するために、オーストラリアピルバラクラトンStrelley Pool層から採集した試料に対して、薄片作成、顕微鏡観察、主要微量元素の全岩化学分析、炭酸塩岩の炭素・酸素・硫黄同位体分析を行い、有機物の痕跡と考えられるマイクロチューブ組織を含む試料を選定した。選定した試料について、さらにEPMAによる詳細な化学組成マッピングとEBSDを用いた結晶構造解析、集束イオンビーム(FIB)と透過電子顕微鏡(TEM)を用いた薄膜試料作成とナノスケール観察・化学分析を行った。EBSD分析の結果、マイクロチューブの内部はチタン石とごく少量の緑泥石により充填され、チタン石のごく僅かな結晶方位差を伴う亜粒界組織を含むものの基本的には単結晶であることがわかった。チタン石マイクロチューブは、湾曲したり、側方へ分岐(特に粒界)したり放射状の集合形態を示すものが多く、チューブ先端に黄鉄鉱を含むものも観察された。以上の観察結果に基づき試料を選別し、研究代表者と博士後期課程院生で6月にカーティン大学を訪問し、アトムプローブ分析を実施した。3つのチタン石のマイクロチューブ内から、FIBを用いて20個のナノニードル試料を作成した。そのうち11個の試料を分析し、チタン石やホスト石英における3次元原子分布を作成することに成功した。チタン石中には原子レベルでアルミや水素のバンド状構造が含まれ、炭素の濃集も普遍的に確認された。水素が濃集するバンドは3次元的に2方向へ伸長しており、片方はアルミのバンドと同様の方位に分布し、炭素濃集部位は水素に覆われていることが観察された。現時点での予察的な解釈では、火山ガラス界面での太古代生命の活動でチタンに飽和した溶液が濃縮され、単結晶のチタン石がチューブ状に成長した可能性が考えられる。
3: やや遅れている
本研究の目的には、地球最古の化石を含む岩体の地質調査を通して、地球初期の生命痕跡に対する詳細な地球化学的分析とアトムプローブ分析を行うのに適した試料を採集・選定することが含まれている。しかし世界的な新型コロナ感染拡大により、海外への移動を伴う野外調査に対する制限が続いていたため、最初の3年間に計画していた現地地質調査を延期せざるを得なかった。現在は、すでに所有しているオーストラリアピルバラクラトンStrelley Pool層のストロマトライト試料を用いて、鉱物の化学分析・化学組成マッピング(EPMA)と結晶構造解析(EBSD)、集束イオンビーム(FIB)を用いた薄膜試料作成とSTEM-EDS分析、アトムプローブ分析についても実績を積んだものの、試料数が限られ予察的な結果を得るに留まっている。そのため、当初予定より本研究計画はやや遅れている状態である。
2024年度はフィールド調査、サンプルの選定と岩石鉱物学的な基礎データの収集、ナノカーボン粒子の超微細組織観察(国内)、アトムプローブ分析(オーストラリア)、SIMSによる炭素・硫黄同位体測定(オーストラリア)を行う予定である。太古代の有機物化石を含む岩石の産状と分布を調べるために、オーストラリアでの地質調査を研究代表者と学生が実施する。カーティン大学のFitzsimons教授の協力を得て約2週間キャンプを実施しながら野外地質調査を行う。特に太古代の微化石の著名な産地であるピルバラクラトンStrelley Pool層中心に炭質物質を含む堆積岩の詳細な地質調査やサンプリングを行う。野外調査(オーストラリア)で採集した試料について、これまでに確立した試料調整や分析・観察を行う予定である。具体的には薄片観察やEPMAによる詳細な元素マッピングとEBSDを用いた結晶構造解析を行い、ラマン・赤外分光分析による炭質物質の結晶度を把握する。また、高分解能電子顕微鏡 (FE-SEM, FE-TEM,デュアルビームFIB) を用いて、ナノカーボン粒子の鉱物・結晶学的特徴および分子構造について観察・分析を行う。さらに、炭質物の形態別の同位体分析を行い、化学的特徴を明らかにすることで、アトムプローブ分析に適したサンプルの選定を行う予定である。またカーティン大学を訪問し、アトムプローブ分析とSIMSを組み合わせた炭素同位体比の3次元構造解析を行い、さらなる考察を行う予定である。
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