研究課題/領域番号 |
20KK0158
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
志見 剛 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (60817568)
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研究分担者 |
河野 洋平 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 研究員 (20831697)
木村 宏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30241392)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2022年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 核ラミナ / ラミン / 核膜孔複合体 / ヌクレオポリン / BAF / cGAS / ラミノパチー / クライオ電子顕微鏡トモグラフィー / 超解像度顕微鏡 / 細胞シート |
研究開始時の研究の概要 |
ラミン遺伝子の変異が原因する遺伝病の総称であるラミノパチーのうち、A型ラミンに関連するラミノパチーの多くは、筋ジストロフィー(MD)と拡張型心筋症(DCM)の症状を伴う。昨年、MDを原因するA型ラミン遺伝子の変異によって核膜が破損することが報告されたが、その分子メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、「破損した核膜の修復異常が特定のラミノパチーを原因する」という作業仮説に基づいて、核膜の破損部においてNLとNPCが再構築する分子メカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
動物細胞の核では、核膜の内側を裏打ちする核ラミナは核構造を維持し、核膜を貫通する核膜孔複合体は核-細胞質間における高分子の輸送を調節する。核ラミナと核膜孔複合体の構造を保つことは、ゲノムDNAの機能を制御するために必須である。核ラミナの主要な構造タンパク質であるラミンは、タイプV中間径フィラメントタンパク質の一種であり、A型ラミン(ラミンA, ラミンC)とB型ラミン(ラミンB1, ラミンB2)によって構成される。ラミンの遺伝子の変異は、遺伝的疾患であるラミノパチーを発症する。 我々は、クライオ電子顕微鏡トモグラフィー法(cryo-ET)とコンピュータービジョンと組み合わせた三次元構造化照明顕微鏡法(3D-SIM)を行い、胚線維芽細胞(MEF)において四量体を形成したラミン分子が繋がって直径約3.5ナノメートルのラミンフィラメントを形成すること、これらのラミンフィラメントが不均 一に分布することによって厚み約14ナノメートルの核ラミナの網目構造を取ることを明らかにした。一方で、核膜孔複合体は直径約120ナノメートルの筒状構造をとり、約30種類のヌクレオポリンから構成される。核膜孔複合体が核ラミナの網目構造の穴に1つずつ挿入されている。我々は、ヌクレオポリンの一つであるELYSと結合して核膜孔複合体の分布を制御することを見出した。 近年、一部のラミノパチーにおいて核膜が破損することが報告されたが、破損した核膜を修復する分子メカニズムについては不明な点が多い。本研究課題では、核膜の破損部において核ラミナと核膜孔複合体が再構築する分子メカニズムを解明するために、コンピュータービジョンと組み合わせた3D-SIMに関してノースウエスタン大学(米国)のRobert D. Goldman博士と、cryo-ETに関してチューリッヒ大学(スイス)のOhad Medalia博士と共同研究を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核膜の一部が破損するとゲノムDNAが核から突出して損傷を受ける。我々は、すべてのラミン(ラミンA, ラミンB1, ラミンB2, ラミンC)の中で、ラミンCだけが核膜の破損部に迅速に集積することを見出した。ラミンCが核膜の破損部に局在するためには、Ig-foldドメイン内を介したBAFとの結合とNLSによる核移行が必要であることが判明した。さらに、ラミンA/Cが欠損すると、核膜の破損部へのBAFの集積とcGASによる核DNAの感知がともに顕著に低下することが確認された。これらの研究成果は、申請者が責任著者となった研究論文として報告された(Kono et al., JCB, 2022)。 ラミンAは、ラミンCとは異なり前駆体のC末端に位置するCAAXボックスが翻訳後修飾の一つであるファルネシル化を受けると脂質親和性を持つ。さらに、ラミンAの前駆体(pre-LA)では、ファルネシル化を受けたCAAXボックスを含む領域が切断されて成熟体になる。ラミンAの変異体であるプロジェリンの発現は、ハッチンソン-ギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)を引き起こす。プロジェリンは、スプライシング異常によって切断サイトが欠失しているので、CAAXボックスがファルネシル化を受けると核膜内膜の脂質二重膜に挿入されたままとなる。HGPSモデルのMEFでは、ラミンAとプロジェリンは核膜の破損部への集積が遅いことを見出した。さらに、ラミンAは、ラミンCには存在しないテールドメイン内に存在する特定の領域を介して核ラミナと強く結合し、核質に拡散する成分が著しく減少して、核膜の破損部への集積も低下することが明らかとなった。これらの研究成果は、申請者が責任著者となった研究論文として現在 投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
ラミンCのrodドメインのC末端側に位置するACN(328-398)サイトは、同ドメインのN末端側と弱く相互作用して、液―液相分離(LLPS)を引き起こす可能性が示唆されている。そこで、ラミンCはACNサイトを介してLLPSを引き起こしてプラーク構造を形成し、次第にラミンフィラメントや核ラミナの網目構造に再構築される可能性がある。 申請者の予備的実験結果によれば、細胞周期の間期において、ラミンCの392番目のセリンはリン酸化を受けることから、LC S392AとLCS392Dの核膜の破損部への集積を調べたところ、LC WTと比較してこれらの変異体の集積が著しく低下したことから、ラミンCが核膜の破損部に局在するためには、S392のリン酸化の有無に関係なくACNサイトの正しい配列が必要であると考えられる。今後は、rodドメインのN末端側とACNサイトをリコンビナント精製し、両者の相互作用によって濃度依存的にLLPS を引き起こす可能性を調べる。 さらに、CRISPR/Cas9システムを利用して、ACNサイトが欠損した内在性のラミンA/Cを発現するMEFを作製する。これらのMEFに核膜の破損マーカーとして赤色蛍光タンパク質であるsfCherryと融合したNLS(NLS-sfCherry)を発現させて、グリッド付きのガラスボトムディッシュに播種する。マイクロレーザー照射によってこれらの細胞の核膜を破損させてから10分間隔で30分後まで固定してcryo-ETを行う。続いて、同一のサンプルをラミンCに対する特異的抗体を使用して免疫染色して3D-SIMを行う。取得した3D-SIMとcryo-ETの画像データをコンピューター解析によって相関させて電子-光相関顕微鏡法(reverse CLEM)を行い、核膜の破損部に集積するラミンC分子の空間的配置・配向を決定する。
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