研究課題/領域番号 |
20KK0168
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022) 大阪市立大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
安房田 智司 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (60569002)
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研究分担者 |
堀田 崇 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD) (70875088)
福田 和也 北里大学, 海洋生命科学部, 助教 (20882616)
守田 昌哉 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (80535302)
幸田 正典 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192052)
十川 俊平 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 研究員 (70854107)
伊藤 岳 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 特定研究員 (10908429)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2021年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 婚姻形態 / 子育て / 協同繁殖 / カワスズメ科魚類 / 中枢神経基盤 / ヘルパー / 共同的一妻多夫 / 追従狩り戦略 |
研究開始時の研究の概要 |
アフリカ・タンガニイカ湖固有のカワスズメ科魚類は、婚姻形態と子育てが最も多様化した魚類の一つで、その多様性と進化の研究は脊椎動物の社会を理解する上で極めて重要である。本国際共同研究は、主に協同繁殖種を対象に、野外調査、水槽実験、遺伝子実験や脳生理学実験から、(1)未知の協同繁殖種の生態を解明し、協同繁殖の進化要因を特定すること、(2)協同繁殖グループの顔認知に基づく個体識別と親子間の音声シグナルを解明すること、(3)多様な婚姻形態を維持する中枢神経基盤を解明することを目的とする。社会進化モデルの本科魚類を用いた生態、認知、脳の融合研究により、ヒトも含む高等脊椎動物の社会の理解が加速度的に進む。
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研究実績の概要 |
本研究では、アフリカ・タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類の協同繁殖種を対象に、野外調査、水槽実験、遺伝子実験と脳生理学実験から、(1)協同繁殖種の生態解明と進化要因の特定、(2)協同繁殖グループの「顔認知」に基づく個体識別と親子間の音声シグナル、(3)多様な婚姻形態を維持する中枢神経基盤を解明することを目的とする。 2022年度は、COVID-19による渡航制限がようやく解除され、7名がザンビアに渡航してタンガニイカ湖南部で調査を行った。ザンビアでは海外共同研究者のAlex Jordan博士と合流し、一緒に調査を行った後に今後の共同研究の展開について打ち合わせを行った。まず、協同繁殖種の生態解明のため、新たにNeolamprologus buescheriの子育て様式と配偶システムを調べた。本種は深場の岩礁域に生息することや極めて臆病な魚であることから、調査が困難な魚であったが、比較的浅い調査場所が見つかったこと、ビデオを用いる調査方法が分かったことから、論文で報告できるようなデータが採取できた。本種はハレム型一夫多妻の配偶システムをもち、ヘルパーが防衛行動を行う協同繁殖種であることが明らかになった。また、2022年度は協同繁殖2種Lepidiolamplorogus meeliとN. bifasciatusの社会構造や分散遅延の論文を学術雑誌に報告した。タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類で協同繁殖が4回平行進化したことや小型種が協同繁殖種に進化したことを初めて明らかにした系統種間比較の論文は、国際共同研究として学術雑誌に投稿中である。その他、共同的一妻多夫、追従狩り戦略、配偶システムと脳サイズの研究にも着手した。 水槽での実験も大きな成果が上がり、協同繁殖魚の繁殖個体がヘルパーを「罰する」ことを初めて証明し、現在、学術雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究内容の(1)協同繁殖種の生態解明と進化要因の特定については、2022年度はタンガニイカ湖で調査できたことから、大きな進展があった。本申請課題で予定していた4種のうち未着手であった1種の社会構造や協同繁殖の実態を概ね明らかにできた。また、執筆活動も進み、学術雑誌に掲載済みか投稿中が大部分となったので、全体として大きな進展があったと言える。2023年度も引き続きタンガニイカ湖で調査を行い、主に操作実験などにより協同繁殖の進化・維持機構を解明していく。Julidochromis marlieriにおける古典的一妻多夫については、現在論文として執筆中である。 研究内容の(2)協同繁殖グループの「顔認知」に基づく個体識別については、カワスズメ科魚類だけでなく、グッピーやイトヨでも顔の個体変異に基づいて個体識別を行っていることが証明され、魚類における「顔認知」の一般性が示された。グッピーについては学術雑誌に掲載済みであり、イトヨについては現在投稿間近の状況である。顔模様の発達とヘルピング行動の出現タイミングの関係についての研究も始めている。 研究内容の(3)多様な婚姻形態を維持する中枢神経基盤については、水槽内で一夫一妻と共同的一妻多夫の異なる配偶システムを作成できるJulidochromis transcriptusを飼育し、実験を進めている。また、野外でも配偶システムの異なる同種の異なる個体群間における脳サイズの違いについて研究を進めている。 このように、本申請課題の中心である野外調査を2022年度は始動できたことにより、協同繁殖種の生態解明と進化要因の特定、認知実験については大きな進展があった。また、多様な婚姻形態を維持する中枢神経基盤についても進展があった。以上より、概ね順調に研究が進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は博士後期課程のメンバーが2名加わり、6月から12月に6名でタンガニイカ湖での野外調査を行う予定である。国際共同研究者であるAlex Jordan博士は、ザンビアのカランボロッジにある飼育施設で実験室を立ち上げたので、その場所を利用し、共同で飼育実験も進める。また、水槽実験は、引き続き大阪公立大学でも実施する。 (1)N. buescheriについては、繁殖生態の野外調査が終了したので、採集した繁殖個体やヘルパー、仔魚の血縁解析を実施する。比較的新しいGRAS-Di seq技術を用いて解析を進めている。また、今後は、協同繁殖の中でも2属だけで独自に進化した共同的一妻多夫に注目し、優位個体や劣位個体の除去実験を中心に、共同的一妻多夫の形成過程や維持機構を明らかにしていく。さらに、N. savoryiの罰の研究を行う。これまで水槽内での限られた条件での実験であったため、実際に野外で、ヘルパーの数や血縁など、様々な条件が異なる状況で、罰が起こる状況を明らかにしていく。主に博士後期課程の大学院生が担当する。 (2)認知については、親子間の音声シグナルの研究を実施する。口内保育種Xenotilapia flavipinnisについて、親が子に発する音を水中マイクで記録し、解析する。録音声を水中で再生し、音だけで子は反応するのか、親の姿と音で反応するのかなど、様々な実験を行い、魚類初となる親子間の音声シグナルを解明する。対象種が成魚サイズとなったので、繁殖させて、実験を開始する。この研究も主に博士後期課程の大学院生が担当する。 (3)J. transcriptusとN. pulcherの脳地図を作成中である。その後、協同繁殖する場合とそうでない場合に、社会行動に関係するバソトシンやイソトシンの産生ニューロンや各受容体の脳内分布の違いを特定し、脳内神経活動も定量化する。
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