研究課題/領域番号 |
20KK0184
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日野原 邦彦 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (50549467)
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研究分担者 |
小嶋 泰弘 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (00881731)
加藤 真一郎 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (40751417)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2022年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2021年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2020年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | SWI/SNF / エピゲノム / がん細胞多様性 / 薬剤耐性 / 多様性 / がん / 1細胞解析 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、クロマチン制御因子SWI/SNF複合体の遺伝子変異によって生じるエピジェネティクス制御機構の破綻が、発がん、治療耐性、再発といった悪性形質獲得に至る過程においてどのようにがん細胞の多様性を造出し、悪性化進展基盤を成すのかを1細胞エピゲノム解析技術によって解き明かす。1細胞エピゲノム情報を取り入れた統合解析を推進することにより、遺伝的要因とは異なるエピゲノム制御の側面からがん多様性の新たな理解を試み、エピゲノムのダイナミクスから生み出されるがんの不均一性を制御する革新的方法論の創出を目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、ARID2欠失変異を持つ抗がん剤耐性乳がん細胞株に特徴的なエピゲノム状態の理解を目的としてChIP-seq解析を進め、ARID2レスキューによりARID2の結合が回復するゲノム領域ではARID1Aの結合が減弱する傾向にあることがわかった。ARID2のレスキュー前後のサンプルを用いてRapid immunoprecipitation mass spectrometry of endogenous protein (RIME)解析を行なったところ、野生型ARID2導入によるPBAF複合体の再形成を確認したことから、PBAF複合体のゲノム結合が再開した結果ARID1Aを含むBAF複合体の結合がコンペティションにより減少した可能性が考えられた。並行して海外共同研究者の技術支援のもと実施した1細胞ATAC-seqの解析を進めたところ、ARID2レスキューによりオープンとなるクロマチン領域にRUNX3モチーフの濃縮を認めた。RUNX3は上記のRIME解析においてもARID2の結合パートナーの一つとして同定されており、ARID2-RUNX3はCDK4などと共にCell cycle decision complexを形成することが知られている。1細胞RNA-seqの解析からは、ARID2レスキュー後に細胞老化関連分泌形質に関わる多くの因子が発現上昇することがわかった。以上より、ARID2変異体細胞は細胞周期制御の変化により老化誘導を免れている可能性が示唆された。一方、メラノーマモデルの研究では、BRAF阻害剤の長期投与後にARID2のヘテロ欠失を有する薬剤耐性細胞株を樹立することに成功した。BRAF阻害剤投与により一旦細胞老化形質が誘導されるが、その後細胞老化を回避した耐性細胞が再増殖してくることから、上記乳がん細胞株同様にARID2変異による細胞老化回避機構の存在が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、海外共同研究機関の技術指導のもと、乳がん細胞株モデルを用いた1細胞およびバルクレベルのエピゲノム・トランスクリプトーム解析を実施し、その解析からARID2のon/offによりエピゲノムレベルで細胞周期制御因子に変化があること、及び遺伝子発現レベルで細胞老化関連分泌形質に関わる因子に変化があることを捉えることができた。ChIP-seq解析やRIME解析との統合的解析も進め、ARID2が欠失するとPBAF複合体が分解されゲノム結合能がなくなり、当該ゲノム領域においてはBAF複合体の結合が優位となることも確認できた。また、メラノーマモデルにおいても分子標的薬の長期投与によりARID2変異を持つ薬剤耐性細胞株を樹立することに成功し、抗がん剤の長期投与によりARID2変異を持つ薬剤耐性細胞が出現する乳がんモデルとの比較検討を行う実験環境を整えることができた。どちらのモデルにおいてもARID2変異が細胞老化回避に関わる可能性が示唆されていることから、今後この点についてさらに詳細な解析を進めていきたい。海外渡航制限により海外機関との共同研究活動には大きな制約があったが、渡航制限の撤廃やコロナ分類が5類引き下げになることに伴い、今夏に長期間の現地滞在を予定している。その際に、海外共同研究者と協働して1細胞データや他のオミクスデータの統合解析を進めたいと考えている。以上のように、当初の研究計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、取得した乳がんのオミクスデータに関する統合解析を海外共同研究者と共に進め、さらにメラノーマモデルにおいても同様のオミクスデータを取得することを計画している。特に、ARID2の変化がいかにしてエピゲノムのダイナミクスを規定しているかを理解し、これらの変化が遺伝子発現レベルで細胞動態にどのような影響を及ぼしているのかに関する解明研究を推進していく。現在までに得られている細胞周期や細胞老化に関わる分子群の変化については実験的に検証を進め、抗がん剤や分子標的薬に耐性を示す細胞においてARID2変異がどのような役割を持つのかを分子レベルで明らかにしていく。また、海外共同研究者は次世代の細胞バーコード化技術も保有しているため、その技術をこれらの薬剤耐性細胞株モデルに適用することでがん細胞の治療抵抗性ダイナミクスを解明する研究も進めていきたいと考えている。以上のアプローチによってARID2を起点とした薬剤耐性メカニズムをエピゲノムダイナミクスの観点から包括的に解明し、これらの基礎的研究成果をもとに薬剤耐性を呈するがん患者の新たな治療法開発を実現するためのシーズ発見を目指す。
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