研究課題/領域番号 |
20KK0268
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
山田 貴志 昭和大学, 大学共同利用機関等の部局等, 兼任講師 (10721318)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2024
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
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キーワード | 睡眠 / E/Iバランス / 脳可塑性 / 視知覚学習 / 自閉スペクトラム症 / 学習の獲得と定着 / 興奮/抑制バランス |
研究開始時の研究の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD: Autism Spectrum Disorder)当事者の学習の特徴を明らかにすることは、療育や援助の基盤となる効果的学習法の創出に不可欠である。「寝る子は育つ」ということわざがあるように、睡眠が学習を含めた心身の成長に利益をもたらすことは経験的に知られ、神経科学研究はそのメカニズムを明らかにしてきた。これらは主に健常者を対象としたものであり、ASDなどの発達障害や精神疾患ではほとんど明らかにされていない。本国際共同研究は「睡眠時」の学習メカニズムを調べる。これにより基課題から発展させ、「覚醒」と「睡眠」両面からASD学習の神経メカニズムを調べることを目的とする。
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研究実績の概要 |
今年度は、(A)視知覚学習と睡眠を組み合わせた実験の実施と、(B)総説論文の執筆を主に行った。(A)実験では、健常者を対象に、睡眠が視知覚学習をどのように促進するかを調べた。睡眠前に視知覚学習訓練を行い、その後MRI内で睡眠中の脳活動をMRスペクトロスコピーとポリソムノグラムで同時計測し、睡眠後の課題成績の変化を調べた。MRスペクトロスコピーは、内側前頭葉(medial prefrontal cortex)と背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex)の脳活動を記録し、それぞれの脳領域が睡眠中の視知覚学習においてどのような役割を果たすかを調べた。結果として、内側前頭葉では、レム睡眠中の興奮/抑制バランスが視知覚学習の定着度合いと相関し(r=-0.65,p=0.02)、背外側前頭前野では、ノンレム睡眠中の興奮/抑制バランスが視知覚学習の獲得度合いと相関することが明らかになった(r=0.56,p=0.03)。今後は、これらの結果を速やかに論文化する予定である。(B)総説論文では、ヒトが学習時に脳可塑性のバランスを睡眠覚醒リズムと合わせてどのように取っているかについて執筆し、Trends in Cognitive Sciences誌に掲載された。また、自閉スペクトラム症における興奮抑制バランス仮説について、睡眠の影響を考慮に入れるべきであるとした総説を執筆し、Psychiatry and Clinical Neurosciencesに掲載された。これらの論文は、当該研究分野の周知と促進を目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、(A)視知覚学習と睡眠を組み合わせた実験の実施と、(B)総説論文の執筆を主に行った。(A)実験では、健常者を対象に、睡眠が視知覚学習をどのように促進するかを調べた。昨年度から継続して、睡眠前に視知覚学習訓練を行い、その後MRI内で睡眠中の脳活動をMRスペクトロスコピーとポリソムノグラムで同時計測した。MRスペクトロスコピーでは、脳可塑性の指標として確立されてきた興奮/抑制バランスを測定し、内側前頭葉と背外側前頭前野の脳活動を記録した。これにより、それぞれの脳領域が睡眠中の視知覚学習においてどのような役割を果たすかを調べることができる。 結果として、内側前頭葉では、レム睡眠中の興奮/抑制バランスが視知覚学習の定着度合いと相関し(r=-0.65,p=0.02)、背外側前頭前野では、ノンレム睡眠中の興奮/抑制バランスが視知覚学習の獲得度合いと相関することが明らかになった(r=0.56,p=0.03)。これらの結果は、健常者を対象とするものとしても大変新奇性があり、今後は速やかに論文化する予定である。(B)総説論文では、ヒトが学習時に脳可塑性のバランスを睡眠覚醒リズムと合わせてどのように取っているかについて執筆し、Trends in Cognitive Sciences誌に掲載された。また、自閉スペクトラム症における興奮抑制バランス仮説について、睡眠の影響を考慮に入れるべきであるとした総説を執筆し、Psychiatry and Clinical Neurosciencesに掲載された。これらの論文は、当該研究分野の周知と促進を目的としている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は大きく以下の2つである。(i) 健常者を対象とした研究で明らかになってきた結果の論文化を速やかに進める。レム睡眠中における内側前頭葉のE/Iバランスが学習の定着に関連し、ノンレム睡眠中における背外側前頭前野のE/Iバランスが学習の獲得に関連するという知見は、健常者のみの結果としても大変新奇性があるため、論文化を進める。また、学会発表などを通じて様々な研究者と意見交換し、本研究を深める方策を探る予定である。これらの結果は、精神疾患で変化が起きやすいとされる内側前頭葉と背外側前頭前野が、睡眠中の学習に果たす役割についての健常者モデルの確立につながり、今後の精神疾患研究への応用可能性が増す。(ii) 自閉スペクトラム症を対象とした実験を行えるよう、今年度中に帰国し、実験環境を整え始める予定である。当該実験には、MRスペクトロスコピーとポリソムノグラムの同時計測が必要であり、機器も含めた計測環境の整備が求められる。また、当事者の方がMRI内でも快適に睡眠が取れるような環境を築くことが重要である。
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