研究課題/領域番号 |
20KK0366
|
研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
篠崎 陽一 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10443772)
|
研究期間 (年度) |
2021 – 2023
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
14,040千円 (直接経費: 10,800千円、間接経費: 3,240千円)
|
キーワード | グリア / 緑内障 / ミクログリア / 神経変性 / 網膜 / オートファジー / 細胞老化 / 1細胞RNAシークエンス / 一細胞解析 |
研究開始時の研究の概要 |
本国際共同研究は、グリア細胞の機能異常を起点とした緑内障発症メカニズムの解明を格段に発展させる事を目的とする。特にミクログリアの関与について解析を進めるため、1細胞RNAシークエンス及びバイオインフォマティクスを駆使してこの課題に取り組む。視覚組織の1細胞解析は全世界的に見ても限られた国、組織でしか達成されていないため、当該組織の取り扱いに習熟した研究グループである、英国ロンドン大学眼科研究所の大沼信一教授との国際共同研究を行い、UCLでい1細胞解析を行い、山梨大学でウェット実験を行う。
|
研究実績の概要 |
本年度は、ミクログリアのP2Y6受容体欠損による組織レベルの変化について検討を進めた。P2Y6受容体欠損マウスは加齢依存的に緑内障症状を示し、網膜神経節細胞の変性を生じる。ミクログリアと神経変性をつなぐ分子メカニズムとしてオートファジーに着目した(Qin et al. Brain Behav Immun 2021)。過去の報告から、単球ではP2Y6受容体がオートファジー制御に関わる事が示されている(Obba et al. Blood 2014)ことから, これらの遺伝子に着目して解析を行った。P2Y6受容体欠損マウスの網膜や視神経乳頭部ではオートファジー関連遺伝子群の多くが変化していた。特に、Class III PI3K Complex関連遺伝子群(Uvra, Becn, p150, Pik3c)の発現低下が認められ、ミクログリアのオートファジー機能異常の可能性が考えられた。昨年度、Colony Stimulating Factor 1 (CSF1)受容体に対する拮抗薬であるPLX5622を投与してP2Y6受容体欠損マウスからミクログリアをリセットすると、網膜や視神経乳頭部の細胞老化遺伝子群の発現が低下する事を見出したが、オートファジー遺伝子群ではミクログリアのリセットに伴って発現が回復した。細胞老化はリソソームの機能異常がその特徴の1つであるため、P2Y6受容体はオートファジー機能障害を介して細胞老化を誘導する可能性が考えられた。一方、オートファジーを抑制的に制御するmTOR関連遺伝子群(Akt, Mtor, Rptorなど)は発現上昇しており、ERストレスが亢進している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの結果、網膜や視神経乳頭部においてP2Y6受容体を発現する主な細胞はミクログリアであると考えられた。当初、我々が過去に報告したようにP2Y6受容体がミクログリアの貪食を制御する(Koizumi et al. Nature 2007)、と予想して貪食関連遺伝子群 (Mertk, Megf10, Gulp1, Abca1, Axl, Tyro3)の発現変化を検討したものの、網膜ではP2Y6受容体欠損によってこれらの遺伝子群の変化は認められず、P2Y6受容体は貪食以外の機能制御に関わるものと考えられた。オートファジーの異常はミクログリアの加齢依存的な機能変化や炎症惹起、各種神経変性疾患に関与する事(Plaza-Zabala et al. Int J Mol Sci 2017)や、単球のP2Y6受容体がオートファジー制御に関わる事(Obba et al. Blood 2014)などから、P2Y6受容体欠損マウス網膜や視神経乳頭部でのオートファジー関連遺伝子群が大きく変化する事、多くの場合遺伝子発現が低下している事から、P2Y6受容体はオートファジーを正に制御し、その機能低下はオートファジー機能低下につながると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
ミクログリア選択的な制御による緑内障発症や治療効果を示すため、アデノ随伴ウイルスによるミクログリア選択的P2Y6受容体遺伝子導入(Lin et al. Nature Method 2022)を試みている。現在、AAVは完成して既に網膜に感染済みであり、中年齢のP2Y6受容体欠損マウスの視覚機能が回復するかどうかを検討予定である。また、FASTシステム(Tanaka et al. Biol Psychiat 2010)を用いたミクログリア選択的かつ時期特異的P2Y6受容体ノックダウン/過剰発現系の構築を進めている。本年度中には個体が得られる見込みである。一方、グリアの細胞移植による緑内障治療の可能性を行動学的・電気生理学的に評価する実験系も立ち上がり、安定に稼働する事が確認できた。予備的な検討では、眼のミクログリアだけを制御するだけで視覚機能が大きく変化する事、つまり、緑内障症状が大きく緩和する可能性を見出している。今後、さらに個体数を追加して検討を進める予定である。
|