研究概要 |
当研究室ではアゾ置換ビピリジン銅錯体において、光異性化反応と配位子交換反応を連動させ、光電変換系の構築に成功しており、本研究では、この銅錯体に酸塩基に応答する水酸基を導入することで、光異性化をスイッチし、光電変換をオンオフできることを目指した。水酸基を導入したアゾ置換ビピリジン銅錯体[Cu(oAB-OH)_2]BF_4を11段階の反応を経て合成した。[Cu(oAB-OH)_2]BF_4はテトラヒドロフラン中、372nmにπ-π*吸収帯が、可視光領域にn-π*吸収帯およびMLCT吸収帯を示した。これに365nmの紫外光照射を行うと、π-π*吸収帯の減少と、n-π*吸収帯の増加がみられ、トランス体からシス体への異性イヒが進行した。これに対して436nmの青色光照射を行うと、逆向きに異性化が進行した。ここに塩基として0.2当量のDBU(1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン)を添加したところ、光を照射しても異性化が観測されなくなった。これはDBUと水酸基の間の水素結合の形成により、シス体からトランス体への熱による異性化が加速されたためと考えられる。さらに、TFA(トリフルオロ酢酸)を添加したところ、再び光異性化が観測され、酸塩基により光異性化を可逆にスイッチできることが分かった。 一方、Ru-DMSO錯体は可視光によって励起され、基底状態ではS配位をとるDMSOがO配位に変化する。この異性化は、電子移動によるルテニウムの酸化数の変化によっても引き起こされる。しかし、結合異性化に並行して配位子が解離することが問題点である。そこで今回、キレート配位子にスルホキシド部位を組み込むことで、錯体の光に対する安定性の向上を目指し、新たな錯体の合成と物性測定を行った。その結果、スルホキシド配位子のかさ高さが異性化による構造変化に影響している事が示唆された。また、スルホキシド配位子の可変性も電気化学応答において、異性化に影響を与え得ると考えられる結果が得られた。
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