研究課題
基盤研究(A)
本研究は、目的の反応の進行を触媒する遷移金属錯体部位(以下、触媒作用部位とよぶ)に対し、その近傍に位置し基質と相互作用することにより反応の効率や選択性の向上などを担う官能基(以下、隣接機能部位とよぶ)を同一分子内に配置させることで、既存の単核金属触媒系では達成できない高効率かつ高選択的な触媒反応を達成することを目的とした。特に二酸化炭素や一酸化炭素を原料とする遷移金属錯体触媒反応に焦点を絞り、研究を進めた。隣接昨日部位としては、本研究開始当初にもちいていたアンモニウム基に着目し、そこにキラリティーを導入した。キラルアンモニウム基の置換位置を種々検討することにより、プロピレンオキシドと二酸化炭素の不斉交互共重合において、得られる脂肪族ポリカルボナートの立体規則性の制御に成功した。すなわち、プロピレンオキシドのラセミ混合物から出発し、一方のエナンチオマーを優先的にポリマー鎖にとりこんだのち、他方のエナンチオマーを続けてこのポリマー鎖にとりこみ続けることで、ステレオグラジエント型のポリカルボナートの合成に成功した。こうして得られたポリカルボナートは、立体制御をおこなっていないポリカルボナートよりも熱安定性が向上していた。熱安定性向上の理由は今のところ不明だが、分子内でステレオコンプレックスなどの特殊な3次元構造が存在している可能性があり、脂肪族ポリカルボナートの物性向上に大きなヒントを与える結果となった。また、一酸化炭素を用いる反応としては、パラジウム触媒を用いるオレフィン類と一酸化炭素の交互共重合において、中心金属に配位しているボスフィン配位子にスルホナート基を結合させた配位子を用いることで、それまで不可能だった汎用極性モノマー(アクリル酸メチルや酢酸ビニル)と一酸化炭素の交互共重合が可能になった。スルホン酸部位が非配位性のアニオンとしての特徴を保ちつつ、静電的な相互作用で触媒作用部位の近傍に位置し、他の配位子の配位を阻害したことが成功の原因である。
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