研究課題
基盤研究(B)
本研究は、クロマチンに接合して複製する非分節のマイナス鎖RNAウイルス-ボルナウイルス(BDV)-による宿主ゲノムのエピジェネティック制御の分子機構を明らかにする試みである。BDVは神経細胞の核内で非細胞障害性に持続感染する。その病原性は感染細胞の機能破壊と考えられており、宿主クロマチンへの相互作用によるエピジェネティック制御の影響が示唆されている。宿主染色体に持続的に相互作用するRNAウイルスはBDVのみであり、本研究によりこれまで知られていない全く新しいRNAウイルスの宿主相互作用と病原性発現機構を発見できると考えられる。これまでに、多くの哺乳動物のゲノムにボルナウイルスのN遺伝子に由来する配列が内在化していること明らかにした。また、BDV感染細胞においてN遺伝子をコードするmRNAが宿主ゲノムへとインテグレーションされる現象も報告した。BDV遺伝子の内在化と宿主ゲノムへのインテグレーションは、RNAウイルスの新たな複製機構と病原機序を解く重要な現象であると考えられる。そこで本年度は、BDVのインテグレーション効率とその機序に関する解析を行った。BDV持続感染細胞から高分子DNAを抽出し、N遺伝子のインテグレーション効率をAlu配列を利用したリアルタイムPCRにより解析するとともに、インバースPCRにより宿主ゲノムにおけるBDV遺伝子の組み込み部位の配列を明らかにした。その結果、BDVのインテグレーションは持続感染において約5×10^2から3×10^3細胞に1イベントであり、その効率は極めて低いことが示された。また、ゲノムに組み込まれたBDV遺伝子及びその周辺配列の特徴からレトロトランスポゾンであるLINEがBDVの逆転写とインテグレーションに関与していることが示唆された。
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