研究課題
基盤研究(B)
腕神経叢神経根引き抜き損傷に対し、対側C7神経根を切離しその近位端と移植神経を端端縫合して患側神経を再建する方法と、神経根を切離せずに神経根の外膜を部分的に開窓し、移植神経断端を端側縫合し、神経交叉することにより、患側神経を再建する方法がある。いずれの症例の知覚回復も求心性神経刺激が対側腕神経叢をバイパスして対側一次体制感覚野に伝導する可能性を示唆している。この仮説を立証するためにマウスに神経交叉術を施行し、大脳フラビン蛋白蛍光イメージを経頭蓋的にモニタリングし大脳皮質活動を観察した。交叉手術を行っていないマウスでは前肢に与えられた振動刺激は刺激側の対側一次体制感覚野に限局した活動性を示すが同側には殆ど活動性を示さない。神経交叉術後4週間後では患側前肢刺激で同側の体制感覚野に限局して反応が見られた。交叉術後8週間では両側体制感覚野に反応が見られた。これらの反応は移植神経を切離すると両側とも消失した。青色レーサー光を同側大脳皮質野に照射し、活動抑制をかけると同側と共に対側皮質野の活動も消失したが、このことは同側皮質反応が皮質から皮質を結ぶ経路によって反対側皮質に伝播していることを示すと考えられる。手術未施行のマウス同側皮質野の高頻度直接刺激と同側前肢刺激では両側体制感覚皮質野反応が急性現象としてみられた。中枢の可塑性に深く関与しているNMDAレセプターを脳皮質特異的にノックアウトしたヘテロのマウスを用いて、皮質からのシナプス形成をブロックし、同様の実験を行った。ノックアウトマウスではコントロール群に比べ、刺激と対側の反応強度は有意に減弱を認めた。神経回路形成と再編成に関わるプロトカドヘリンαをノックアウトしたマウスに対し、経頭蓋的に電気刺激を左の体性感覚野に与えたところ、ノックアウトマウスでは対側の体性感覚野の応答は有意に減弱していた。このことから、プロトカドヘリンノックアウトマウスは左右半球間の脳梁連絡が弱いマウスといえる。このマウスを用いて同様の実験を行った。ノックアウトマウスではコントロール群に比べ、刺激と対側の反応強度は有意に減弱を認めた。以上のことを総合すると半球間における経験依存的可塑性が神経交差移植後の回復に重要な役割を果たしていると考えられる。
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PLoS One
巻: 7(4)
J Neurosci
巻: 31(13) ページ: 4896-905
The Journal of Neuroscience
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