研究分担者 |
仲地 宗俊 琉球大学, 農学部, 教授 (70180312)
岩元 泉 鹿児島大学, 農学部, 教授 (10193773)
坂爪 浩史 北海道大学, 大学院・農学研究科, 准教授 (80258665)
藤村 美穂 佐賀大学, 農学部, 准教授 (60301355)
高梨子 文恵 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 特任講師 (60547214)
坂田 正三 アジア経済研究所, 東南アジアII研究グループ, 主任研究員 (90450519)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2011年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2010年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2009年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
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研究概要 |
本研究の目的は,グローバル化と工業化・近代化がすすむ2000年代以降のベトナム農業と農村社会及び経済の変容を明らかにすることである。この目的に沿って後述する研究の目的に示した9つの具体的研究課題を設定して,研究に取り組んだ。 本研究を通じて得られたいくつかの新知見は次のとおりである。(1) 2000年代以降の農業政策は食料増産から農村地域の工業化と近代化を推進する方向への舵を切り,多くの小規模な「工芸村」を出現させている。これは,農業生産に基づく農村社会の紐帯の崩壊と食料安全保障基盤の脆弱化という危険性を孕む一方,工業・手工業の経験と技能を持つ農村住民が更なる持続的経済成長の人的資源となる可能性も生み出している。(2) 1995年と2010年の農家パネル調査の結果によると,メコンデルタではかなりの数の農家の消滅があった。また世帯における農地が減少し,中でも稲作の後退が明らかである。農家数の減少と世帯の縮小の背景には,地域の急速な工業化の影響が考えられる。(3)紅河デルタのパネル調査の結果によると,大規模工業団地の造成に伴い農地を喪失する農家が現れる一方,地域の工業労働力としての雇用は限定的であり手工業の小規模事業主として変容している実態や農家の脱農化が進み地域農業の維持と担い手確保のために農業協同組合が規模拡大志向農家に対して農地斡旋など新しい事業を開始する事例がある。(4)将来のベトナム農業の中心的担い手であると期待される大規模私営農場は増加しているが,その傾向には地域差がある。また農地を集積して大規模私営農場の経営に成功しているのは主として地方役人や都市部の富裕層であり,農民経営から成長発展する事例は極めて限られている。(5)相対的に農業の条件不利地域とみられてきた北部山岳地域でも,緑茶生産や酪農など商業的農業の著しい成長がみられる。とりわけ外資企業の参入及び参入企業と生産農家との間の「契約農業」の導入が地域の生産農家の市場アクセスを良好にし,地域の生産拡大に果たした意義が大きい。(6)南東部及び中部高原に展開する輸出向け工芸作物の大規模農場では大量の農場労働者を必要とする。かつてこの労働力の供給源であったメコンデルタや紅河デルタの農村部では工業化に伴う地域労働力市場の形成により,両地域からの農業季節労働者の移動はかなり減少している。(7)中央高原のラムドン省ダラットなどでは外資企業による野菜や花卉の契約生産が広がっており,生産物品質保証の国際認証を取得するなどの動きが活発になっている。(8)近年の農産物流通組織の近代化にあっては,農業協同組合の役割が増している。しかし,流通本来の役割については,各農協の経営資源と指導層のマネジメント能力に差異があり課題が大きい。(9)経済成長の著しいベトナムにあって少数民族の生計維持はなお困難を伴っている。水稲改良品種の導入と化学資材の多投により,近年の単収は90年代前半と比較して2倍の水準にまで増加した。しかし,灌漑設備の不備等のためその恩恵を受けられる農地は限られている。また衛生保持のための社会インフラの整備も遅れており,住民の健康被害の懸念や慢性的な栄養不足の状況が続いている。
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