研究概要 |
この研究は、J.S.バッハの教会カンタータについて、資料批判、作品研究、対訳作成などの準備段階から実際の演奏に至るプロセスを吟味し、公開演奏とCD録音において統合する目的で始めたものである。当初18曲のカンタータを3つの群に分けて3年にわたる研究の対象としたが、第1群として分類した8曲のうち7曲(BWV45,102,17,19,36,27,47)について実際に公開演奏とCD録音が終了した現段階で、この研究は個人的な事情により終了せざるを得なくなった。ここまでの研究において、特筆するべき内容としては、BWV102の自筆総譜に書き込まれた演奏上の指示が作曲者によるものかどうか、という点について小林義武氏(研究協力者)に資料調査を委嘱し、その結果を演奏に反映させた。またBWV36について作品成立の複雑な経緯については、江端伸昭氏の助力を得て整理した。またRWV102、27、47のアリアにおけるオブリガート楽器の撰択については、その複雑な事情に鑑み、資料の検討および可能性のある楽器の試奏を経て、複数の可能性を録音して、音楽上の表現を比較できるようにした。また聖書の引照つき対訳は、藤原一弘氏の協力を得て作成した。批判的パート譜の作成については、ウェブ上で公開して同時にオリジナル資料を直ちに参照できるようなシステムを構築するには至らなかったが、原資料に見られる不統一な指示を既成のパート譜に書き入れて演奏に供した。将来的な出版については、演奏上の指示がかえって自由な演奏の妨げとなり得ることから、理想的な形態については今後の研究に待たざるを得ない。しかし、ここまでの研究を通じて、上記のカンタータの実際の演奏結果をCDで公表することができ、それによって、演奏上の問題点と表現の一例を示すことができた。そのことによって、我が国のJ.S.バッハ作品の受容に微力ながら貢献できたと考えている。
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