研究概要 |
Context :医師の長時間勤務や夜勤により発生する睡眠障害等に関する問題はマスコミを通じて数多く取り上げられており、なかでも米国医師会雑誌では研修医の睡眠障害を取り上げ勤務時間短縮による効果を指摘し、また米国睡眠障害研究委員会によると、米国の病院における長時間勤務や夜勤によって発生する睡眠障害は、医師の誤診や医療ミスにまで影響が及んでいると報告されている。医師の過重労働や睡眠不足は、医師自身の健康を損なうのみならず、日中の過剰な眠気や認知機能の低下をもたらして、メディカルインシデントを誘発する可能性がある。そのため、医師の労働や睡眠は、医師自身の健康管理の観点から、また、医療の安全確保の観点からも重要である。しかしながら、医師の労働や睡眠の状況、あるいはそれらと日中の過剰な眠気やメディカルインシデントとの関連性についての疫学研究知見については十分に知られていない。Objective :日本の医師の労働と睡眠の現状を明らかにすると共に、これらと日中の過剰な眠気とメディカルインシデントとの関連性を明らかにする。Design, Setting, and Participants :日本大学医学部を平成元年から平成10年に卒業し、住所の把握がなされた医師955人を対象に2009年に自記式質問票調査を実施した。卒業生は1, 168名を日本大学医学部同窓会が把握しているが、住所の不明な者および海外に住所のある者を除いた955名を対象にした。Main outcome measure :平均労働時間、夜勤・当直日数、休日数、睡眠時間、睡眠による休養不足、不眠症、日中の過剰な眠気、メディカルインシデントの経験Results :有効回答数は362名(男性: 256名、女性: 106名)であり、回収率は38%であった。1日の平均労働時間は、男性が528.5分、女性が479.6分であった。1ヶ月間の休日数の平均は5.8日であった。外科医の労働時間が長いことや産婦人科医の夜勤・当直の回数が多い結果が認められた。1日の平均睡眠時間は、男性医師で6時間13分、女性医師で6時間1分であった。男性医師の睡眠による休養不足の有訴者率(prevalence)は30.4%、女性医師では36.6%であった。不眠症の有訴者率は、男性医師で28.4%、女性医師で30.6%であった。日中の過剰な眠気の有訴者率は17.3%であった。過去1ヶ月間にメディカルインシデントを経験した者は、解析例の24.7%に認められた。睡眠による休養不足、不眠症において、メディカルインシデントに関する調整オッズ比が高値となった。Conclusions :医師の健康管理と医療安全確保の観点から、医師の労働と睡眠について、充分に配慮することが重要である。
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