研究概要 |
ヒト骨髄腫細胞における特異的CD56発現の分子機構を明らかにするべく、まずCD56陽性骨髄腫細胞株(NOP-2, AMO1)とCD56陰性骨髄腫細胞株(U266)との間での遺伝子発現プロファイリングを常法のごとくDNAマイクロアレイ法(Affymetrix社)で解析した。解析した54,675遺伝子の中で、CD56陽性骨髄腫細胞株で発現上昇していた1,584遺伝子を、発現低下していた2,110遺伝子を同定した。これらの遺伝子の中で、特に差異が見られたのは神経系細胞に関係する遺伝子であった。SOX1, SOX4, HOXB9, ZIC2, DLX2, PREP1, MEIS1, DBN1, CHGB, CALB1などが注目された。これらの遺伝子発現はRT-PCR法においても確認された。CD56陽性骨髄腫細胞株において、SOX1遺伝子発現は低下、SOX4遺伝子発現は上昇、HOXB9遺伝子発現は上昇していた。このことは、患者骨髄腫細胞においてもRT-PCR法で確認された。次に、ヒトCD56遺伝子の転写調節領域にはSOX結合領域およびHOX結合領域があるので、クロマチン免疫沈降法(ChIP)でCD56陽性あるいはCD56陰性骨髄腫細胞株でのCD56遺伝子転写調節領域のSOX結合領域へのSOX1あるいはSOX4の特異的結合の有無を解析した。CD56陰性骨髄腫細胞株では、SOX1が特異的に結合しており、逆にCD56陽性骨髄腫細胞株ではSOX4が特異的に結合していた。これらのことから、CD56陰性骨髄腫細胞株にSOX1特異的shRNAを遺伝子導入(Amaxa法)して、CD56発現が誘導されるかどうかを検討したが、CD56発現は誘導できなかった。逆に、CD56陰性骨髄腫細胞株にSOX4遺伝子導入(Amaxa法)することで、CD56発現を誘導することができた。CD56陽性骨髄腫細胞株へのSOX4特異的shRNA導入により、CD56発現が抑制された。患者骨髄腫細胞においても、骨髄穿刺液からマルチカラー染色を用いたソーティング法で骨髄腫細胞を分取した後、RNAを抽出し、RT-PCR法で遺伝子発現、特にSOX4, SOX1, HOXB9などの遺伝子発現を解析した。患者CD56陽性骨髄腫細胞においてもSOX4の発現上昇が明らかに確認された。以上のことより、骨髄腫細胞での特異的CD56発現は、転写因子SOX4の発現誘導あるいは発現上昇により誘導されることが明らかになった。
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