研究課題
基盤研究(C)
我々は成長ホルモン分泌不全性低身長(GHD)患児において、JAK-STAT経路の分子群、特にSTAT5A/B遺伝子多型と血清総コレステロール値との相関を統計学的に解析した。NICBに登録されているSTAT5A/B遺伝子のSNPよりHapMapプロジェクトのホームページ上で5ヵ所のtag SNP(STAT5A g. 4992C> A, g. 18132A> G, STAT5B g.-41175A> G, g.-9945C> T, g. 8164G> T)を選択しTaqMan法にて各SNPの遺伝子型を決定した。その結果、GHD患児においてはGH治療前・開始後の血清総コレステロール値と各々の遺伝子多型とに有意な相関(p<0. 05)を認めた。一方、一般成人集団においても部分的には同様の傾向を認めたが有意差は証明されなかった。次にSTAT5遺伝子のプロモーター領域に存在する遺伝子多型の転写能に影響を及ぼす可能性を推定し、ルシフェラーゼレポーターアッセイによる機能解析を行った。pGL4. 10ベクターにSTAT5B遺伝子の上流約2Kbのプロモーター領域をクローニングし、同部位に存在する唯一のSNPであるrs4029774(-44816T> C)のT多型(野生型)もしくはC多型を持つ2種類のベクターを作成した。各ベクターを各種細胞株にトランスフェクションしルシフェラーゼアッセイで発現量を比較した結果、各ベクターの遺伝子発現量に有意な差を認めた。次にコンピューターソフトを用いこの多型を含む領域に結合する可能性の転写因子を検索すると、-44816Aでは9種類の転写因子が選択されるのに対して、-44816Gでは1種類のみであった。以上より-44816A/G多型によるSTAT5B遺伝子の発現の違いがSTAT5B分子ならびにその下流の遺伝子の発現量に影響を及ぼし、さらにこれらの遺伝子産物が直接的または間接的にLDL受容体やコレステロール合成酵素、PPAR-γ等の脂肪細胞分化に影響する転写因子群の発現に影響を与えると推定された。以上の結果よりSTAT5B遺伝子のプロモーター領域に存在する多型が遺伝子機能に関与しており、小児GHD児における血清コレステロール値を規定する遺伝的背景因子であることが示唆された。
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