研究課題
基盤研究(C)
(1)傍正中視床下部の脱髄性病変により2次性にオレキシン神経が障害された過眠症の報告は多くなされているが、なぜ視床下部の正中部が特異的に障害されるのかが非常に不可解であった。2004年にMSのサブタイプであるNMO(OSMS)に特異的に検出される自己抗体(NMO-IgG)が発見された。その後NMO-IgGの標的抗原は脳内の水分子チャネルであるアクアポリン4(aquaporin-4, AQP4)であることが見出された。Pittock(2006)らはNMO-IgG陽性患者の脳病変についても検討しており、間脳・視床下部と第四脳室周囲の病変の分布が、AQP4の高発現部位に一致すると報告している。当初は視床下部脱髄の7症例の血清を検討したところ、3例でAQP4抗体が検出された(Kanbayashi2009)。視床下部の病変はAQP4抗体の免疫反応により引き起こされたものと考えている。その後も継続的に症例の集積を進めて、10例以上のAQP4抗体陽性例を集積しており、傍正中視床下部脱随による、2次性の過眠症の一つの疾患概念を確立しつつあると考えている。(2)ナルコレプシーでの脳内鉄代謝とむずむず脚(RLS)/周期性四肢運動障害(PLM)の病態の検討:PLMの有病率はナルコレプシーでは25-50%と非常に高率に認められる。加えてRLS/PLMでは脳内の鉄イオンの減少が原因のひとつであり、髄液中のフェリチンが低値でトランスフェリンが高値と報告されている。PLMの合併の多いナルコレプシーでの、鉄代謝の変化を調べるためオレキシン欠損のナルコレプシー患者のCSFでフェリチン、トランスフェリン、鉄イオンの測定を行った。RLSの患者の場合とは異なり、フェリチンは健常群と差が無いが、トランスフェリンと鉄イオンはむしろ有意に高値であった。特に約3割の患者では大幅に逸脱した数値であった。脱力発作の有無やHLAタイピングは鉄代謝には関連が認められなかった。オレキシン神経系が脱落することによって、脳内の鉄代謝の調節機構が機能不全に陥るのではないかと考えている。
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