研究概要 |
作用機序が未だ解明されていない吸入麻酔薬であるが,脳内神経ネットワーク活動に与える影響を中心に作用機序の解明をはかるため麻酔導入時にみられる"興奮期"の発症メカニズムを検討した.実験はマウスの大脳皮質-線条体の細胞内電極:Whole-cell Patch Clamp法により大脳基底核の入力中継点である線条体細胞,主にMedium spiny neuron:MS細胞の電気生理学的変化を記録分析した.吸入麻酔薬セボフルランは気化器を用いて気化状態として人工脳脊髄液にバブリングし,灌流投与した.セボフルラン5分投与は線状体における抑制性シナプス電流IPSCの振幅を65%と強力に抑制した.これは興奮性シナプス電流EPSCの28%の抑制より明らかに大きく,抑制系と興奮系の効果にアンバランスが生じていることが分かった.またテトロドトキシンを添加した微小電流解析では,セボフルランがIPSCの頻度を著明に低下させたため,シナプス前終末でのGABA放出確率の低下によると思われた.このように一過性に大脳皮質からの興奮性入力が増加すると同時に線状体では抑制性入力がより大きく抑制されることで,脳-線条体-視床という神経回路が興奮状態に傾くのではないか,と思われた.すなわち,この興奮-抑制の不均衡がセボフルラン麻酔導入時にみられる興奮期の発生のメカニズムの1つと思われた.また,SevofluraneはGABA受容体に由来するPhasic GABA電流のみならず.tonic GABA電流が増強されることから,吸入麻酔薬の作用機序としてtonic GABA電流の関与が示唆された.
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