研究概要 |
【結果】GFPトランスジェニック雄と交配した妊娠18-20日の雌マウス42匹の組織を解析した。解析に用いた臓器は末梢血、骨髄、胸腺、肝臓、脾臓、心臓、肺、腎臓、脳の9臓器で、それぞれを単核球の浮遊細胞としたのちに免疫染色を行った。42匹は9グループに分け、それぞれの各臓器をCD34,CD11b,CD31,CD45,CD44,CD29,CD105,CD150,CD184でシングルカラー免染し、FACSでGFP陽性である胎児細胞における陽性頻度を解析した。最も胎児細胞が多く認められたのは母獣肺組織であり、次いで末梢血、脾臓、肝臓、骨髄に認められた。胸腺や腎臓、脳にはわずかにしか存在しなかった。肺組織に存在している胎児細胞の表面抗原の解析では、10から20%の細胞がCD11b,CD29,CD31,CD44,CD45,CD105に陽性であり、また20%の細胞が血液幹細胞マーカーとされるCD34陽性であった。一方末梢血に存在する胎仔細胞はCD29,CD44,CD45陽性のものが主体であり、多様な細胞が集積している肺と異なり血液系の細胞が選択的に分布していることが示された。これは骨髄で顕著であり、胎児細胞の80%はCD45陽性の血液系細胞であった。脾臓に認められる胎児細胞も同様の傾向を示し、主としてCD11b,CD31,CD44,CD45陽性細胞が多くを占めた。 【考察と重要性】胎仔から母体に侵入した胎仔細胞が、単に胎仔から「漏れ出て」いるだけなのか、何らかの目的を持って「移動」しているのかについて、従来まったく知られていなかった。本結果は、母体の肺組織については胎児細胞は多様性を呈しておりランダムな集積を、末梢血や骨髄、脾臓といった組織には胎仔血液系細胞が選択的に集積していることを示している。胎仔から母体内に胎盤を介して移行した胎児細胞はいったん肺というフィルターに補足され、その後分化した細胞はその適切な場に再分布している可能性が初めて示された。
|