研究概要 |
高齢者の義歯の装着は,咀嚼能力,咀嚼感,そして日常生活の質を高めるものと考えられる.本研究では,高次脳機能にかかわる前頭前皮質活動性に対する義歯治療効果を明らかとする目的から,認知機能,顎機能とそれにかかわる前頭前皮質活動の様相をもとに,義歯装着の効果について検討を加えた.これまでに部分欠損歯列患者を対象として,前頭前皮質血流のNIRS計測とSF36 v2とOHIP-JとMMSEならびに顎筋活動と顎運動の計測を同時に行い,さらに,主観的な咀嚼能力を評価する咀嚼スコアについても診査を行なった.義歯装着と非装着との統計学的検討では,義歯装着によって,顎運動,咀嚼筋活動,前頭前皮質血流は有意に増加した.また,咀嚼スコアも義歯装着による有意な増加を示した.義歯装着時の前頭前皮質血流は,咀嚼筋活動ならびに咀嚼スコアと有意な関連を示した.義歯治療の過程では,治療前の状態と比較して,口腔関連ならびに健康関連QOL, MMSEに新義歯の装着による改善傾向が示された.これらのことは,義歯治療が咀嚼機能の改善ばかりか,前頭前皮質活動,口腔ならびに身体のQOL,さらには認知スコアで示される認知能力の改善などに役割を果たす可能性を示唆している.
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